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雇用問題を的確に扱えないマスメディアの現場主義(COLUMN1)
派遣切り、内定取り消し――。さかんに報道されるようになった雇用問題だが、依然として原因を新自由主義や構造改革に求める紋切り型の論調が目立つ。マスメディアの大きな問題は、目の前に見ている「現場」に気をとられ、ブーム的に現象を取り上げ、何かをスケープゴートにして、忘れ去ることだ。このブームとリセットのスパイラルが、雇用問題での本質的な議論を遠ざけている。
■「派遣村」に踊った年末年始
雇用を巡る議論でマスメディアに目立つのは「小泉構造改革の弊害」「新自由主義は間違いだった」というもので、「日本的なよさを見直そう」といった回顧現象すら起きている。その代表格が、構造改革の旗振り役で、ソニーの取締役なども務めた、現・三菱UFJ リサーチ&コンサルティング理事長の中谷巌氏。自ら懺悔の書と呼ぶ『資本主義はなぜ自壊したのか』で、アメリカに「かぶれ」、新自由主義を信奉したことを悔い、安心、安全といった日本の伝統的社会の価値を見直そう、と呼びかけている。「反省しないよりまし」と転向を評価する声もあるが、リセットとも言える、その極端な変節こそが問題なのだ。
雇用問題の露出を高めたきっかけのひとつが日比谷公園で行われた「年越し派遣村」だ。年末年始は、行事やスポーツなどの「決まりごと」が中心でニュースが少ないこともあり、 メディアはこぞって取り上げた。注目が集まれば政治家も駆け付ける。厚生労働省の講堂を宿泊所に提供させるといった成果を上げ、公務員宿舎の一時開放や各自治体による臨時職員の採用などの「派遣切り対策」が打ち出されることになった。
改めてマスメディアの力が示された、と言いたいところだが運営を切り盛りしたNPOや労組の作戦勝ちの面が大きい。一過性のイベントで派遣問題が解決することはないが、テントや炊き出しといった分かりやすいビジュアルで現場を作り出し、問題を「見える化」し、マスメディアに話題を提供、人々の注目を集め、解決を促す手段として利用した。
派遣村は、マスメディアの現場主義を見事に利用した「メディアイベント」だった。逆に言えば、マスメディアは「現場」を作ってもらわなければ社会問題を集中的に報じることはなかった。マスメディア側は、「平穏無事」なはずの年末年始に急速に浮上したアジェンダにあわてて焦点を当てたに過ぎない。そもそも雇用が問題になるとは思っていなかったことは、新聞各社の1面企画を見れば分かる。
■雇用が問題と気づいていたNHK
年明けスタートの1面連載は、新聞各社がその年最も力を入れるテーマを選ぶ。朝日新聞は「世界変動 危機の中で」、毎日新聞は「アメリカよ 新ニッポン論」、読売新聞は「大波乱に立ち向かう」。危機に触れていてもかなり視点が高い。日本経済新聞が「世界この先(第一部サバイバビリティ)」で中高年保護と若者の排除について触れているが、多くの社は国内の雇用や労働問題にダイレクトには切り込んでいない。ビジネス誌の東洋経済が新年最初の特集に「若者危機」を選んだのとは大きく異なる。
金融危機の前から兆候はいくつもあった。NHKスペシャルで「ワーキングプア~働いても働いても豊かになれない~」が放送されたのは2006年のこと。博士号取得の研究者が大学などの研究職に就けず期限付きのポストを渡り歩くポスドク問題や格差社会の問題(格差の火付け役となった、山田昌弘氏の主張は制度と希望の問題だったが、いつの間にか金の話になった)、秋葉原の無差別殺傷事件から読み解くこともできたはずだ。いずれも、従来のシステムが崩れ、社会がきしんでいるシグナルだった。
NHKは雇用問題について継続的にインパクトのある番組を放送している。秋葉原事件の直後には、ワーキングプアシリーズの取材班が「追跡・秋葉原通り魔事件」を放送、ネットと連動して意見も募集して、若者の不安を浮き彫りにした。つい先日も「リストラの果てに ~日雇いに流れ込む人々~」を放送、何度もその構造問題を社会に訴えている。
雇用の問題を少し掘り下げれば、正社員と非正規の格差、新卒一括採用など「日本型雇用システム」が横たわっていることに気付くはずだが、多くのマスメディアが、日雇い派遣や製造業派遣の禁止に解決を求めようとする政治や省庁の動きを追い続けている。これも動きがない問題に目を向けない現場主義の弊害だ。
■テーマがないと忘れてしまう
実は、秋葉原無差別殺傷事件の後も同じだった。事件は昨年6月8日に起きたが、14日に岩手・宮城内陸地震が発生すると、多くのマスメディアが矛先を地震に向け、災害現場の状況を洪水のように報道し始めた。
NHKと他のメディアの違いはテーマを持っているかどうかだ。NHK取材班は雇用というテーマを持っているからこそ、何か問題が起きると雇用に結び付けて取材を進めることができるが、多くのマスメディアの記者はテーマがないため、その場限りの現場を消費するだけになる(NHKがテーマを持てるのはもちろん、受信料に支えられ多くの取材スタッフを抱えられるからであるが)。
現場主義の典型的なパターンは、派遣村に取材に行き、集まった人々に同情し、社会的な義憤を感じて記事を書く。「派遣村を社会全体の問題として捉えなければならない」などと書きながら、次の現場が発生すると目移りして派遣村を忘れ去る。
なぜ、冒頭で中谷氏の著書を紹介したのか。新自由主義が注目されれば構造改革の旗を振り、貧困や格差が問題になれば昔が良かったと憂いてみせる、このような社会の空気を読んだ風見鶏ぶり(と薄っぺらさ)が、マスメディアにそっくりだからだ。どのようなシステムや理論も完璧ではなく、良いところもあれば課題もある。「どうしてこのような問題が起きているのか」を見つめ、プラスとマイナスを加味してこそ、次の手が打てる。リセットでは何の前進もない。
日比谷公園に集まった人々は「派遣村ご一行様」と書いたバスに乗って都内各地へ散った。既に、人々の注目が失われつつあり、またもや問題は先送りされそうだ。現場に目を奪われ、ブームとリセットのスパイラルで脊髄反射的な記事を書くのではなく、テーマをもち、「なぜ」にこだわり、目の前に見えている事象の奥に潜む問題を掘り起こすのがジャーナリストの仕事ではないだろうか。
米デジタル放送移行延期の顛末 日本にも起こりうる不測の事態(COLUMN2)
2月4日、米国連邦議会下院は264対158でアナログテレビ停波の延期法案を可決した。これにより、2月17日に予定されていた米国アナログテレビ放送の終了は4カ月先送りされる。予定日のわずか2週間前の同決定を受け、米国のテレビ業界は対応に追われている。米国が10年の歳月をかけて準備してきたテレビ放送のデジタル化は最終段階でつまずきを見せた。その顛末を追ってみたい。
■テレビニュースは翌朝から大騒ぎ
「みなさん、注意深くお聞きください。今月に予定されていたアナログ放送の終了が4カ月延びました!」
5日朝のテレビニュースは、前夜の停波延期決定を受けて大騒ぎとなった。各地上波テレビ放送はこれまで繰り返してきたカウントダウンを止め、ニュースキャスターが長い時間をかけて経緯を説明した。ニュースでは再三、アナログ放送の停止が6月12日に変更されたことを繰り返した。
米国テレビ放送のデジタル化は、1997年の改正通信法から本格化した。以来10年、ハイディフィニッション(高精細)番組を目玉にデジタル化を進めようとする政府と、新規投資を渋る放送業界とが激しくぶつかり合う時期を経て、2009年2月17日のアナログ停波が決まったのは2007年のこと。それを受けて連邦通信委員会(FCC)は2008年1月からアナログ周波数跡地の無線競売を行った。
これは停波で空くUHF帯を次世代携帯サービス用に再交付するためのオークションで、総落札価格は195億9200万ドル(当時の換算で約2兆円)に達した。各放送局はアナログとデジタルを同時放送して停波日に備え、電波免許を獲得した大手携帯事業者はすでに同周波数を使ったネットワーク建設の準備を進めている。また、家電業界もデジタル対応テレビを懸命に売り込んできた。こうして放送業界も携帯電話業界も家電業界も、2月17日を待つばかりになっていたのである。
■クーポン用財源が枯渇
では、なぜ土壇場で延期を余儀なくされたのだろうか。その原因は連邦政府にあった。デジタル放送への移行にともない、連邦政府はアナログ放送だけを受信している世帯を補助するために「デジタル・アナログ・コンバーター」の購入クーポンを2008年から発行している。しかし、クーポンの希望者は停波が近づくにつれて急増し、1月3日には予定していた予算枠134億ドルを超えた。以後、クーポンの発行は90日間の有効期限が切れた数量だけ追加発行するという限定されたものになり、発行待ちの数が100万件を超える状況に陥っている。
この現状にアナログ停波計画を進めてきた連邦議会は大騒ぎとなり、1月8日前後には下院テレコミュニケーション・インターネット小委員会のエドワード・マーキー(Edward Markey)委員長が延期の可能性を打診しだした。ほぼ同時に、ワシントンで活動していたオバマ・バイデン政権移行チームも延期の提案をオバマ氏に伝えた。こうして連邦議会とオバマ大統領は停波の延期へと動き出していく。
■下院が否決、2月に持ち越しへ
本来であれば、停波延期法案はもっと早く可決されるべきだった。しかし、オバマ新大統領の就任と時期が重なったことが事態を複雑にした。新政権発足にともない、与党である民主党でも長老格を中心に人事が刷新された。
まず、テレビのデジタル化で中心的な役割を担ってきた下院エネルギー・商業委員会の委員長がジョン・ディンゲル(John Dingell)議員からヘンリー・ワックスマン(Henry Waxman)議員に替わったほか、同委員会に属するテレコミュニケーション・インターネット小委員会もマーキー委員長からリック・バウチャー(Rick Boucher)委員長へと替わった。
一方、オバマ大統領と民主党を率いるナンシー・ペロシ下院議長は山積する重要課題を抱え議会対策に追われる。特に、超大型予算となった景気対策法案を超党派で可決させたいオバマ大統領としては、野党共和党との無用な摩擦は避けたかった。こうした微妙なタイミングのなかで停波延期法案の調整は難航した。
◇ ◇ ◇
4カ月という短期間であることもあり、携帯大手や放送業界は今回の決定に困惑を示しながらも柔軟な姿勢を示している。とはいえ、連邦議会はこれで問題が片付いたわけではない。仕切り直しとなったアナログ停波日に向けて、クーポンプログラム用財源の確保を進めなければならない。
これは現在審議中の景気対策法案の一部にまとめられることになるだろう。オバマ新政権は今回、延期問題をなんとか乗り越えた。しかし、民主党内のとりまとめと共和党との調整が予想以上に難航したことで、オバマ大統領のリーダーシップがそれほど強くないことを露呈したとも言える。
一方、2011年に控えた日本でのアナログ放送停波にも、今回の延期は貴重な示唆を与えることになるだろう。十分な準備を進めてきたにもかかわらず、コンバーター購入支援プログラムが破綻したことを考えれば、日本においても予想外の問題が起こる可能性は否定できない。とはいえ、デジタル放送への移行にこれまで10年の準備期間を費やしてきたことを考えれば、わずか4カ月の先送りは「延期と言うほどでもない」との見方も十分にできるだろう。
派遣切り、内定取り消し――。さかんに報道されるようになった雇用問題だが、依然として原因を新自由主義や構造改革に求める紋切り型の論調が目立つ。マスメディアの大きな問題は、目の前に見ている「現場」に気をとられ、ブーム的に現象を取り上げ、何かをスケープゴートにして、忘れ去ることだ。このブームとリセットのスパイラルが、雇用問題での本質的な議論を遠ざけている。
■「派遣村」に踊った年末年始
雇用を巡る議論でマスメディアに目立つのは「小泉構造改革の弊害」「新自由主義は間違いだった」というもので、「日本的なよさを見直そう」といった回顧現象すら起きている。その代表格が、構造改革の旗振り役で、ソニーの取締役なども務めた、現・三菱UFJ リサーチ&コンサルティング理事長の中谷巌氏。自ら懺悔の書と呼ぶ『資本主義はなぜ自壊したのか』で、アメリカに「かぶれ」、新自由主義を信奉したことを悔い、安心、安全といった日本の伝統的社会の価値を見直そう、と呼びかけている。「反省しないよりまし」と転向を評価する声もあるが、リセットとも言える、その極端な変節こそが問題なのだ。
雇用問題の露出を高めたきっかけのひとつが日比谷公園で行われた「年越し派遣村」だ。年末年始は、行事やスポーツなどの「決まりごと」が中心でニュースが少ないこともあり、 メディアはこぞって取り上げた。注目が集まれば政治家も駆け付ける。厚生労働省の講堂を宿泊所に提供させるといった成果を上げ、公務員宿舎の一時開放や各自治体による臨時職員の採用などの「派遣切り対策」が打ち出されることになった。
改めてマスメディアの力が示された、と言いたいところだが運営を切り盛りしたNPOや労組の作戦勝ちの面が大きい。一過性のイベントで派遣問題が解決することはないが、テントや炊き出しといった分かりやすいビジュアルで現場を作り出し、問題を「見える化」し、マスメディアに話題を提供、人々の注目を集め、解決を促す手段として利用した。
派遣村は、マスメディアの現場主義を見事に利用した「メディアイベント」だった。逆に言えば、マスメディアは「現場」を作ってもらわなければ社会問題を集中的に報じることはなかった。マスメディア側は、「平穏無事」なはずの年末年始に急速に浮上したアジェンダにあわてて焦点を当てたに過ぎない。そもそも雇用が問題になるとは思っていなかったことは、新聞各社の1面企画を見れば分かる。
■雇用が問題と気づいていたNHK
年明けスタートの1面連載は、新聞各社がその年最も力を入れるテーマを選ぶ。朝日新聞は「世界変動 危機の中で」、毎日新聞は「アメリカよ 新ニッポン論」、読売新聞は「大波乱に立ち向かう」。危機に触れていてもかなり視点が高い。日本経済新聞が「世界この先(第一部サバイバビリティ)」で中高年保護と若者の排除について触れているが、多くの社は国内の雇用や労働問題にダイレクトには切り込んでいない。ビジネス誌の東洋経済が新年最初の特集に「若者危機」を選んだのとは大きく異なる。
金融危機の前から兆候はいくつもあった。NHKスペシャルで「ワーキングプア~働いても働いても豊かになれない~」が放送されたのは2006年のこと。博士号取得の研究者が大学などの研究職に就けず期限付きのポストを渡り歩くポスドク問題や格差社会の問題(格差の火付け役となった、山田昌弘氏の主張は制度と希望の問題だったが、いつの間にか金の話になった)、秋葉原の無差別殺傷事件から読み解くこともできたはずだ。いずれも、従来のシステムが崩れ、社会がきしんでいるシグナルだった。
NHKは雇用問題について継続的にインパクトのある番組を放送している。秋葉原事件の直後には、ワーキングプアシリーズの取材班が「追跡・秋葉原通り魔事件」を放送、ネットと連動して意見も募集して、若者の不安を浮き彫りにした。つい先日も「リストラの果てに ~日雇いに流れ込む人々~」を放送、何度もその構造問題を社会に訴えている。
雇用の問題を少し掘り下げれば、正社員と非正規の格差、新卒一括採用など「日本型雇用システム」が横たわっていることに気付くはずだが、多くのマスメディアが、日雇い派遣や製造業派遣の禁止に解決を求めようとする政治や省庁の動きを追い続けている。これも動きがない問題に目を向けない現場主義の弊害だ。
■テーマがないと忘れてしまう
実は、秋葉原無差別殺傷事件の後も同じだった。事件は昨年6月8日に起きたが、14日に岩手・宮城内陸地震が発生すると、多くのマスメディアが矛先を地震に向け、災害現場の状況を洪水のように報道し始めた。
NHKと他のメディアの違いはテーマを持っているかどうかだ。NHK取材班は雇用というテーマを持っているからこそ、何か問題が起きると雇用に結び付けて取材を進めることができるが、多くのマスメディアの記者はテーマがないため、その場限りの現場を消費するだけになる(NHKがテーマを持てるのはもちろん、受信料に支えられ多くの取材スタッフを抱えられるからであるが)。
現場主義の典型的なパターンは、派遣村に取材に行き、集まった人々に同情し、社会的な義憤を感じて記事を書く。「派遣村を社会全体の問題として捉えなければならない」などと書きながら、次の現場が発生すると目移りして派遣村を忘れ去る。
なぜ、冒頭で中谷氏の著書を紹介したのか。新自由主義が注目されれば構造改革の旗を振り、貧困や格差が問題になれば昔が良かったと憂いてみせる、このような社会の空気を読んだ風見鶏ぶり(と薄っぺらさ)が、マスメディアにそっくりだからだ。どのようなシステムや理論も完璧ではなく、良いところもあれば課題もある。「どうしてこのような問題が起きているのか」を見つめ、プラスとマイナスを加味してこそ、次の手が打てる。リセットでは何の前進もない。
日比谷公園に集まった人々は「派遣村ご一行様」と書いたバスに乗って都内各地へ散った。既に、人々の注目が失われつつあり、またもや問題は先送りされそうだ。現場に目を奪われ、ブームとリセットのスパイラルで脊髄反射的な記事を書くのではなく、テーマをもち、「なぜ」にこだわり、目の前に見えている事象の奥に潜む問題を掘り起こすのがジャーナリストの仕事ではないだろうか。
米デジタル放送移行延期の顛末 日本にも起こりうる不測の事態(COLUMN2)
2月4日、米国連邦議会下院は264対158でアナログテレビ停波の延期法案を可決した。これにより、2月17日に予定されていた米国アナログテレビ放送の終了は4カ月先送りされる。予定日のわずか2週間前の同決定を受け、米国のテレビ業界は対応に追われている。米国が10年の歳月をかけて準備してきたテレビ放送のデジタル化は最終段階でつまずきを見せた。その顛末を追ってみたい。
■テレビニュースは翌朝から大騒ぎ
「みなさん、注意深くお聞きください。今月に予定されていたアナログ放送の終了が4カ月延びました!」
5日朝のテレビニュースは、前夜の停波延期決定を受けて大騒ぎとなった。各地上波テレビ放送はこれまで繰り返してきたカウントダウンを止め、ニュースキャスターが長い時間をかけて経緯を説明した。ニュースでは再三、アナログ放送の停止が6月12日に変更されたことを繰り返した。
米国テレビ放送のデジタル化は、1997年の改正通信法から本格化した。以来10年、ハイディフィニッション(高精細)番組を目玉にデジタル化を進めようとする政府と、新規投資を渋る放送業界とが激しくぶつかり合う時期を経て、2009年2月17日のアナログ停波が決まったのは2007年のこと。それを受けて連邦通信委員会(FCC)は2008年1月からアナログ周波数跡地の無線競売を行った。
これは停波で空くUHF帯を次世代携帯サービス用に再交付するためのオークションで、総落札価格は195億9200万ドル(当時の換算で約2兆円)に達した。各放送局はアナログとデジタルを同時放送して停波日に備え、電波免許を獲得した大手携帯事業者はすでに同周波数を使ったネットワーク建設の準備を進めている。また、家電業界もデジタル対応テレビを懸命に売り込んできた。こうして放送業界も携帯電話業界も家電業界も、2月17日を待つばかりになっていたのである。
■クーポン用財源が枯渇
では、なぜ土壇場で延期を余儀なくされたのだろうか。その原因は連邦政府にあった。デジタル放送への移行にともない、連邦政府はアナログ放送だけを受信している世帯を補助するために「デジタル・アナログ・コンバーター」の購入クーポンを2008年から発行している。しかし、クーポンの希望者は停波が近づくにつれて急増し、1月3日には予定していた予算枠134億ドルを超えた。以後、クーポンの発行は90日間の有効期限が切れた数量だけ追加発行するという限定されたものになり、発行待ちの数が100万件を超える状況に陥っている。
この現状にアナログ停波計画を進めてきた連邦議会は大騒ぎとなり、1月8日前後には下院テレコミュニケーション・インターネット小委員会のエドワード・マーキー(Edward Markey)委員長が延期の可能性を打診しだした。ほぼ同時に、ワシントンで活動していたオバマ・バイデン政権移行チームも延期の提案をオバマ氏に伝えた。こうして連邦議会とオバマ大統領は停波の延期へと動き出していく。
■下院が否決、2月に持ち越しへ
本来であれば、停波延期法案はもっと早く可決されるべきだった。しかし、オバマ新大統領の就任と時期が重なったことが事態を複雑にした。新政権発足にともない、与党である民主党でも長老格を中心に人事が刷新された。
まず、テレビのデジタル化で中心的な役割を担ってきた下院エネルギー・商業委員会の委員長がジョン・ディンゲル(John Dingell)議員からヘンリー・ワックスマン(Henry Waxman)議員に替わったほか、同委員会に属するテレコミュニケーション・インターネット小委員会もマーキー委員長からリック・バウチャー(Rick Boucher)委員長へと替わった。
一方、オバマ大統領と民主党を率いるナンシー・ペロシ下院議長は山積する重要課題を抱え議会対策に追われる。特に、超大型予算となった景気対策法案を超党派で可決させたいオバマ大統領としては、野党共和党との無用な摩擦は避けたかった。こうした微妙なタイミングのなかで停波延期法案の調整は難航した。
◇ ◇ ◇
4カ月という短期間であることもあり、携帯大手や放送業界は今回の決定に困惑を示しながらも柔軟な姿勢を示している。とはいえ、連邦議会はこれで問題が片付いたわけではない。仕切り直しとなったアナログ停波日に向けて、クーポンプログラム用財源の確保を進めなければならない。
これは現在審議中の景気対策法案の一部にまとめられることになるだろう。オバマ新政権は今回、延期問題をなんとか乗り越えた。しかし、民主党内のとりまとめと共和党との調整が予想以上に難航したことで、オバマ大統領のリーダーシップがそれほど強くないことを露呈したとも言える。
一方、2011年に控えた日本でのアナログ放送停波にも、今回の延期は貴重な示唆を与えることになるだろう。十分な準備を進めてきたにもかかわらず、コンバーター購入支援プログラムが破綻したことを考えれば、日本においても予想外の問題が起こる可能性は否定できない。とはいえ、デジタル放送への移行にこれまで10年の準備期間を費やしてきたことを考えれば、わずか4カ月の先送りは「延期と言うほどでもない」との見方も十分にできるだろう。
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