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有機ELパネル、石川工場の量産白紙撤回 東芝子会社
 東芝子会社の中小型液晶メーカー、東芝モバイルディスプレイ(TMD、埼玉県深谷市)は、石川工場(石川県川北町)での有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)パネルの量産計画を白紙撤回した。2009年10月に量産ラインを稼働する計画を延期して検討してきたが、市場で競合する液晶パネルの性能向上と価格下落の影響で投資回収は難しいと判断した。
 同社によると、有機EL量産計画は昨年暮れから年明けにかけて保留扱いになり、10年度に入って計画そのものを白紙撤回する方針が固まった。
 東芝とパナソニックとの共同出資会社だった08年7月に発表した計画は、約160億円を投じて石川工場に量産ラインを新設。携帯電話などモバイル機器向けに2インチの有機ELパネルを月150万枚生産するとしていた。
 液晶に比べて高精細で薄型設計が可能な有機ELは、次世代ディスプレーとして脚光を浴びてきたが、ここ数年で液晶も画質が改善してきた。
 TMDが生産している中小型液晶は競合激化による価格下落で収益が悪化している。
 米ディスプレイサーチによると、10年7~9月の世界の中小型液晶の出荷数量はリーマン・ショックがあった08年の同期を12%上回るが、出荷金額は7%減の水準にとどまる見通し。
 有機ELパネルの世界市場は、韓国サムスン電子のグループ会社が金額ベースで過半を握っている。日本メーカーではソニーが07年に11インチの世界初の有機ELテレビを発売したが、第2弾を出さないまま生産終了した。
 TMDは7月にシンガポールの中小型液晶の生産子会社を台湾の友達光電(AUO)に売却するなどリストラを推進しており、財務面からも新たに有機ELに進出するリスクは大きかった。
 日本政策投資銀行の調査によると、北陸3県で10年度に計画されている電気機械の設備投資は298億円。TMDが有機EL量産ラインに投資するはずだった約160億円は北陸地域での投資としては規模が大きい。
 計画の発表当時、地元では石川工場が次世代ディスプレーの主要な生産拠点となることへの期待もあった。同社の計画の白紙撤回で、雇用創出など地域経済への波及効果も期待できなくなった。



パナソニック、販路再編インドで先行
三洋とパナ電工、完全子会社化前に
 パナソニックは子会社の三洋電機、パナソニック電工の完全子会社化をにらみ、販路の再編に着手する。家電製品、照明など住宅用機器の一体販売が柱で、まず2010年度中にインドでパナ電工が持つ約1万2000店にのぼる住宅用機器の販路を通じパナソニック、三洋の家電製品を販売する。海外市場で統合効果をいち早く引き出し新興国開拓のモデルとし、日米欧市場でも同様の再編を検討する。国内外の電機大手にはない多様な商品群を効率的に販売する体制を構築、収益力の強化を急ぐ。
 パナソニックは11年4月に三洋、パナ電工を完全子会社化する予定。家電、住宅用機器とも世界的な販売競争が激化しており、完全子会社化を待たずに海外から販路の再編に取り組む。
 インドではパナ電工が07年に買収した電設資材最大手アンカー・エレクトリカルズ(ムンバイ)の販路を使う。配線器具やブレーカーなど電設資材を手掛け、取り付け工事などで家庭にパイプを持つ。商品の展示スペースを持つ主要店舗だけで約1万2000店、小規模の店舗を含めると約30万店の小売網を抱える。
 主要店舗にパナソニックと三洋の炊飯器やアイロンなどを並べる。またエアコンのほかパナソニックがインド市場向けに開発した日本円で5万円を切る低価格の液晶テレビなどAV(音響・映像)機器も扱う。順次、冷蔵庫、洗濯機など取扱商品を広げていく。商品知識や点検・修理などのアフターサービスに必要な従業員教育にも力を入れ、それぞれの地域の家庭に持つパイプを最大限に生かす。
 パナソニックはインドを新興国戦略の最重要市場の一つと位置付けており、12年度までに約300億円を投じてエアコンと薄型テレビの工場を新設する計画。パナソニック自身の専売店は現在約100店舗。これらの専売店でもパナ電工の蛍光灯などの住宅用電設機器、三洋の太陽光パネルを使った携帯型照明器具を取り扱い、商品群を順次拡充する。生産、販売体制の拡充で、12年度のインド事業の売上高を09年度比5倍の2000億円に増やす計画だ。現地での家電シェア10%超を目指す。
 インドの家電市場はLG電子とサムスン電子の韓国2社が低価格帯の商品を集中的に投入し、エアコン、冷蔵庫、テレビでそれぞれ2~3割のシェアを握る。パナソニックは子会社2社との販路乗り入れで各家庭に直接売り込む市場密着型の戦略で拡販する。
 パナソニックは三洋とパナ電工の完全子会社化に伴い、12年1月までに3社の白物家電やAV機器などの消費者向け製品分野を統合する方針。三洋が白物家電で高いシェアを持つ東南アジア市場では三洋の販路を活用して拡販と効率化を急ぐ。12年度に営業利益ベースで600億円の相乗効果創出を実現する。
 3社は国内では7月から三洋製の太陽電池をパナソニックとパナ電工の販路で売る協業を始めている。



マイカー保有、初の減少 都市・40歳代に変化
09年 世帯当たり台数2.2%減
 結婚して子どもができればファミリーカー、昇進したらちょっと格上の車に買い替える。そんなマイカー志向に転機が訪れている。総務省による世帯別の自家用車の保有台数調査によると、2009年時点の1世帯当たりの保有台数は調査開始以来、初めてマイナスになった。大都市圏や50代以下の世帯で減少が目立つ。国内市場の頭打ち傾向を改めて裏付けている。
 総務省は5年ごとに世帯の自動車保有状況を調べている。今回調査は、09年9~11月に全国の2人以上の5万2000世帯を対象にした。
 それによると、1000世帯当たりの保有台数は1414台で、前回調査の04年を2.2%下回った。マイナスに転じたのは東京オリンピックの1964年に調査を開始して以来初めて。軽自動車は8.5%増えたが、小型自動車は6.6%、普通自動車は12.8%それぞれ減少した。
 調査を始めた64年の1000世帯当たりの保有台数は68台。60年代には自動車(カー)はカラーテレビ、クーラーと並ぶ「新三種の神器」ともてはやされた。66年にはトヨタ自動車がその後の日本のモータリゼーションをけん引する「カローラ」の初代モデルを発売した。日本の中流階級にとって、自家用車を保有することが一種のステータスシンボルになった。世帯当たりの保有台数は急速に伸び、89年の調査では1世帯に1台の割合にまで拡大した。
 しかし、90年代の後半に入ると車は相当程度の世帯に行き渡り、99年以降は増加率が1ケタになった。
 09年の調査結果からは様々な傾向が読み取れる。年齢別に見ると、50代以下で世帯保有台数が軒並み減少。30歳未満の若年層が6.4%減ったほか、働き盛りの40代では6.6%も減少した。
 将来不安を抱える若年層のクルマ離れに拍車がかかり、所得環境の悪化などで中年層も自動車を手放す世帯が増えていることがうかがえる。
 対照的に60歳代の世帯の保有台数は5.2%、70歳以上は6.3%増加した。高齢世帯では中・若年層以上に軽自動車が大きく伸びているのが特徴だ。高齢世帯での普及拡大は地域別の動向からも見て取れる。
 都道府県別で04年に比べて最も減少率が大きかったのは神奈川県。これに千葉県や埼玉県、東京都などが続く。大都市圏では公共交通機関も発達しており、必ずしも自動車に頼る必要は高くないという事情もある。これに加え、駐車場などにかかる保有コストなどが高いといった事情もあるとみられる。
 これに対して、山梨県や新潟県、島根県などでは比較的堅調に伸びている。保有台数が増加している都道府県では65歳以上の人口の割合を示す高齢化率も高い傾向がある。比較的豊かな高齢者が身近な交通手段として自動車を使い続けている様子がうかがえる。



メーカーに危機感 若者との「接点」求めツイッターも
 1世帯当たりの保有台数減少に自動車メーカーは危機感を強める。重点を置く市場はアジアなど新興国に移りつつあるとはいえ、若者離れで国内市場が縮んでいけば生産拠点の維持が難しくなる。
 「首都圏では駐車場が埋まらないマンションをよく見かけるようになった」。国内自動車大手の幹部はため息をつく。新築マンションの駐車場は、「首都圏では収容台数を減らす傾向にある」(マンション開発大手)。
 足元の新車総販売はエコカー減税などの景気刺激策もあって7月まで11カ月連続で前年実績を上回る。ただ、購入者の主体は中高年に移っている。
 日産自動車が6月に発売した多目的スポーツ車(SUV)「ジューク」。かつてなら若者が飛びつきそうな奇抜なデザインが特徴だが、購買者の6割が40歳以上。7月に発売した小型車「マーチ」は8割以上だ。
 「首都圏の若者の間ではクルマはもはや所有するものでなく、利用するものになった」。都内の販売店のベテラン営業担当者の実感だ。
 複数の会員で1台のクルマを共有するカーシェアリング。交通エコロジー・モビリティ財団(東京・千代田)の今年1月の調査によると、クルマを貸し出す拠点数は861カ所と1年前の2.4倍、会員数は1万6177人と同2.5倍に増えた。
 節約志向が強まる一方で、携帯電話やゲーム機などお金の使い道も増えている。そんな若者をどうやって振り向かせるか。日産が目をつけたのはIT(情報技術)だ。
 開発担当者が日記形式で新車の魅力をつづる「ブログ」や、短い文章で新車をアピールする「ツイッター」などを積極活用。「ITは顧客との接点を増やす有力なツール」と国内営業担当の片桐隆夫常務執行役員は言う。
 将来の顧客である子どもにも目を向ける。
 「動いたー!」。都内の小学校の校庭で歓声が上がった。4年生の生徒数人がセダン「マークX」を綱引きで動かしたのだ。自動車販売会社の東京トヨペット(東京・港)が昨年11月から取り組んでいる出張授業「クルマ原体験教室」だ。
 販売会社の営業担当者や整備士が「先生」となり、クルマの仕組みを解説する。クルマに触れる機会が減った子どもたちに関心を持ってもらう試みだ。トヨタ自動車が企画・立案した同プログラムは、すでに全国100校以上で実施した。
 三菱自動車も子供向け就業体験型テーマパーク「キッザニア甲子園」(兵庫県西宮市)に、クルマの組み立てを体験できる「自動車工場」を出展した。
 ハイブリッド車や電気自動車など「エコカー」での需要掘り起こしにも期待が集まる。ただ、現状では2台目として気軽に買えるような価格ではない。保有台数を増やす“即効薬”になるかは不透明で、地道な取り組みが欠かせない。



米グーグル、「グーグルマップ」で店内写真の閲覧サービスを提供へ
 インターネット検索世界最大手、米グーグルのジョン・ハンケ副社長(製品管理担当)は6日、東京都内で記者会見し、同社が運営する地図情報サービス「グーグルマップ」の機能強化に向け、利用者が検索をしたときに飲食店や小売店などの内部の写真を閲覧できるサービス「おみせフォト」を今後提供していく方針を明らかにした。
 おみせフォトは現在、日米豪3カ国の一部都市で、店側の承諾を得た上で同社のチームが撮影を進めている段階。グーグルは、利用者が店内の写真を見られるようにすることで集客につながるメリットがあるとしている。店側は無料で写真を掲載できる。サービス開始時期について、河合敬一・シニアプロダクトマネージャーは「できるだけ早く公開したい」とした。
 ハンケ副社長は、グーグルマップのサービス開始5周年に合わせて来日。「世界中の人々が知る必要のある重要な場所は約10億カ所はあると思うが、グーグルマップには現在、約1億カ所しか掲載していない。まだ余地はある」と述べ、さらなる地図情報の獲得に意欲を示した。
 グーグルマップ日本版では、地図上にビルの名前を細かく表示したり、写真を多用したりするなど、本家である米国版にはなかった独自の工夫を加えて改善を進めてきた。上田学・エンジニアリングマネージャーは「細かい点を含めて大幅に進化した」と手応えを強調した。



トヨタ、タイでプリウス生産 年内にも
 トヨタ自動車は6日、年内にもタイでハイブリッド車「プリウス」の生産を始める方針を明らかにした。同社がタイでハイブリッド車を生産するのは、2009年に開始した「カムリハイブリッド」に次いで2車種目。タイを東南アジアほか周辺地域へのハイブリッド車の輸出拠点として育てる考えだ。
 プリウスを生産するのは現地子会社の「トヨタ・モーター・タイランド」。電池などの基幹部品は日本から輸出し、現地で車両を組み立てる。プリウスを生産するのは、日本、中国に次いで3カ国目となる。
 トヨタは1997年に国内でプリウスを発売してから現在まで、国内で100万台、海外で168万台のハイブリッド車を販売している。世界的な需要の拡大を受けて海外生産にも力を入れており、09年にはオーストラリア、10年6月には英国でも生産を開始している。



日本企業、インドでM&A加速
 日本企業が、M&A(企業の合併・買収)によるインド進出を加速させている。平成22年1~6月の日本企業のインドでのM&Aは8件で、このペースでいけば統計のある昭和60年以降で年間の最高記録を更新しそうだ。背景には、成長著しいインド市場で欧米企業と競争するため、M&Aに活路を見いだす日本企業の戦略がある。
 日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、日本の対外M&Aは、ピークだった20年の5兆6538億円から、同年秋のリーマン・ショックの影響により21年は1兆8910億円に失速。しかし、22年1~6月は1兆6093億円で、21年通年の金額に肩を並べる規模まで回復した。
 投資先を国別でみると、トップの米国が1兆315億円、メキシコが1259億円、チリが851億円と続く。ただ、件数でみると、米国(43件)に次いで、中国(16件)、インド(8件)が浮上する。
 特にインドは19年以降、急激に投資額が増えており、20年に4342億円(10件)、21年に2477億円(11件)と推移。22年1~6月は280億円だったものの、「大型案件が少ないだけで、件数でみると前年を上回るペース」(ジェトロ)という。
 日本企業がインドに注目するのは、世界第2位の人口を抱え、国内総生産(GDP)で6~9%の成長が続くため。現地工場の従業員らの人件費増などのチャイナリスクを嫌い、投資先を分散したい日本企業にとって、インドは有望な市場だ。
 世界各国でM&Aを手がける大手コンサルティング、アクセンチュアによると、自動車、家電などの輸出関連企業が、インド市場で欧米企業とのシェア争いを優位に進めるため、地元企業のM&Aを検討する動きが出ているという。
 ジェトロ海外調査部の安田啓氏は「食品、化学などの内需に比重を置いていた企業が、日本市場の頭打ちで中国、インドなどの新興国での販路拡大を目指している」と分析する。内需だけでの成長に見切りを付けた日本人経営者が、確実に増えているようだ。



米国経済、日本型デフレの懸念 雇用悪化、消費萎縮で需要不足
 米国経済が、日本型デフレに陥るとの懸念が広がっている。リーマン・ショックの金融危機で、借金で消費を拡大させる経済モデルが崩壊。さらに失業率の高止まりで、家計が萎縮(いしゅく)し、「需要不足」から物価の下落が続く恐れがある。市場では、追加金融緩和観測が高まっているが、実質的なゼロ金利政策により、下げ余地はない。高水準の赤字を抱える財政出動にも限界があり、デフレを阻止する手立ては見あたらないのが実情だ。
 失業率が9%台に高止まりする最大の原因は、長期失業者の増加だ。バーナンキ連邦準備制度理事会(FRB)議長は、「失業者のほぼ2人に1人が半年以上職がみつからない」と、現状を憂う。
 リーマン・ショック後の急激な景気後退の中、企業はレイオフ(一時解雇)などリストラによって業績回復を果たしたが、先行き不安感から新規採用には消極的なまま。解雇後も比較的短期間で再就職できる米労働市場の柔軟性は、戦後最長の景気後退で色あせた。
 雇用の悪化で、個人消費や住宅投資は低調に推移。2010年4~6月期の実質GDP(国内総生産)は年率換算2・4%増と2期連続で減速した。
 しかも、家計はかつての住宅バブルで膨らんだ借金の圧縮を迫られており、消費という米国経済を支えてきた最大の需要は縮むばかりだ。その結果、供給が需要を上回る状態となり、物価下落圧力が高まるという構図だ。
 みずほ総合研究所市場調査部の小野亮シニアエコノミストは「失業率の高さや需給ギャップの大きさから判断すると、デフレに陥るリスクが高まっている」と警告する。
 日本の場合は、バブル崩壊により、「債務・人員・設備」の3つの過剰を抱える企業部門の供給過剰によりデフレに陥った。これに対し、米国は家計部門に原因があるという違いはあるが、需要不足という点では共通している。
 市場では、FRBが10日に開く連邦公開市場委員会(FOMC)で追加緩和に踏み切るとの見方が大勢。ただ、政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標はすでに0~0・25%まで低下している。FRBによる買い取り資産の拡大などで実質的な量的緩和を行うしかない。ただ、かつての日本では「需要不足のなかで資金供給を増やしてもデフレ阻止の効果がなかった」(日銀関係者)のが実情だ。
 財政支出もガイトナー財務長官は「雇用を中心にした成長促進策が不可欠」とし減税を検討している。しかし、法案通過に難航しており、追加刺激策を打ち出せず、失業率のさらなる上昇を許す可能性がある。



ADK、早期退職100人募集 今期、最終赤字に転落
 アサツーディ・ケイ(ADK)は6日、全従業員の約5%にあたる100人の早期希望退職を実施すると発表した。2008年秋のリーマン・ショック以降の景気低迷による広告需要の落ち込みと、競争激化による収益力の低下に対応するため、人件費を圧縮する。
 40歳から58歳までの従業員が対象。9月27日から10月15日まで募集し、11月末に退職する予定。希望者には再就職支援を実施する。10年12月期に特別加算金など関連費用約22億円の特別損失を計上するが、11年12月期以降は年間11億円程度の人件費削減を見込む。
 ADKは同日、10年12月期の連結最終損益が25億円の赤字(前期は7300万円の黒字)になる見通しだと発表した。従来予想は1億円の黒字だった。1株当たり配当金予想額は年間20円で据え置く。



グーグル「ネット中立性」捨てた? 通信業者と抜け駆け「密約」疑惑
米グーグルが、大手通信業者とコンテンツの優先的な配信をめぐって交渉を進めていると報じられた。グーグルが業者に割増料金を支払い、コンテンツの配信速度を上げることでより早くユーザーに届ける内容だという。
実はグーグルは、ネットに流れる情報は量や中身にかかわらず公平に扱うよう通信業者に求めてきた「張本人」。報道内容は、グーグルが立ち位置を転換したことを意味する。真偽のほどはどうなのか。
2社とも交渉を否定
ニューヨークタイムズ電子版(NYT)は2010年8月4日、グーグルと米通信大手ベライゾンの「交渉」について伝えた。グーグルがベライゾンに料金を支払うことで、コンテンツの伝送スピードを上げる「優遇措置」をとってもらおうとの話だ。例えばグーグルが運営する動画投稿サイト「ユーチューブ」の動画を、競合サイトに比べて高速でユーザーに届けられるようにする。記事では、匿名の関係者の話として「交渉は8月8日の週前半にもまとまる可能性がある」と踏み込んでいる。
グーグル、ベライゾン両社とも、記事内容を早々に否定した。グーグルはツイッターに、「NYTの記事は誤報。当社はベライゾンと、トラフィック(ネットワークを流れる情報)伝送で料金を支払う話はしていない。当社では今もオープンなネットの実現を目指す立場である」と投稿した。ベライゾンも、自社のブログで「グーグルと当社の交渉に関するNYTの記事は間違っている」と強調した。
グーグルが特定の通信業者に対して、自社の利益を優先させるような「密約」を交わしたとすれば、実に具合が悪い。というのは、グーグルは「ネットの中立性」を先頭に立って求めているからだ。ネットの中立性とは、トラフィックを規模の大小で差別しないという考え方。例えば、動画のストリーミングや電話など、ネットワークに大きな負荷がかかるトラフィックを遮断したり、低速度で伝送したりしないよう通信業者に対して求めるものだ。料金についても同様に「平等」を主張する。グーグルのほか、ネット電話事業のスカイプ、SNSのフェースブック、アマゾンなどが同調している。
方針を180度転換?
だが、通信事業者にとっては厄介だ。この考え方だと、大量かつ「重たい」コンテンツを流してネットワークを「占拠」する相手でも、接続料は他と変わらないからだ。トラフィックの増大でネットワークが混雑すれば、他のユーザーにも影響を及ぼすため、設備の増強を迫られる。だからといって、大量コンテンツを流す顧客から追加料金は徴収できない。
米国では実際に争いがある。通信事業者コムキャストが、他のユーザーに不利益になるとして一部トラフィックを制御したことに、米連邦通信委員会(FCC)が08年に「違法」だと認定、妨害行為の禁止を求めた。ところが09年4月、米連邦控訴裁判所は、FCCにはこのような権限がないとしたのだ。ネットの中立性を進めたFCCの判断が「無効」となった格好で、グーグルをはじめとした推進派には打撃となった。
仮にNYTの報道が正しければ、グーグルは方針を180度転換、平等な扱いを諦めて、通信業者からコンテンツ配信の「優先権」をカネで買うことで決着を図ろうとしているように見える。米国メディアでは、NYTに追従する形でこのニュースを流した。米ブログメディア「ハフィントンポスト」には、
「仮に記事が間違っていたとしても、グーグルは消費者から怒りのメッセージを受け取って慌てたに違いない」「この契約が誰にも知られず進められたら、例えるなら図書館で、企業に操作された情報は本棚の探しやすい場所に配置されるが、その他は手の届かない隅に追いやられるようなものだ」
と、グーグルに対して疑惑の目を向けるコメントが並んだ。ネットの中立性の実現については消費者の間でも賛否両論あるようだが、このまま本当に契約が結ばれたとしたら、少なくともグーグルが自社の主張を曲げて「裏切った」と見られる恐れはある。
 
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