00430000s@merumo.ne.jp に空メールすると、ブログと同じ内容のメルマガをが配信されます。twitterはhttps://twitter.com/wataru4 です。
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
稼げないソニー! テレビ新製品の連発し、出荷台数急増でも…
ソニーのテレビ事業は一見すると、絶好調だ。
10月12日、ソニーは「インターネットテレビ」を発表した。これは、グーグル製の「アンドロイド」とインテル製の高性能半導体を搭載したまったく新しいコンセプトのテレビ。キーボード付きリモコンも付属しており、インターネット閲覧とテレビ番組の視聴という家庭の2大娯楽が、これ1台だけで自在に楽しめる、というものだ。
ソニーは6月にも高精細さが自慢の3Dテレビを発売している。新しい時代を予感させる新型テレビを次々に打ち出しており、テレビにおけるトレンドリーダーとしての地位は復権しつつあるかのようだ。
新興国市場でも追い風が吹き始めている。韓国のサムスン電子やLGエレクトロニクスが上位を占めてきたインドの薄型テレビ市場で今年の夏、ソニーが初めてシェアトップに躍り出た。新興国市場でも、急速に「SONY」の4文字が輝きを増してきている。
サムスンが握る生命線 収益化できない迷路
ところが、内実は決して輝いてはいない。華やかな新製品発表、販売台数の躍進とは裏腹に、収益展望は急速に不透明感を増している。テレビはソニーの売り上げの約15%を占めており、単一製品としては最大事業。かかわっている社員も多く、まさにソニーを象徴する製品だ。赤字に悩み続けるテレビ事業は、跛行を続けるソニーの縮図である。
8月下旬、東京・品川にあるソニー本社ビルの会議室。ここにテレビ事業の幹部数十人が招集され、緊急会議が開かれた。会議で明らかにされたのは、今2011年3月期もテレビ事業の赤字が続く可能性が高いというシナリオだった。
はじき出された赤字見通しはおよそ250億円。前期の赤字750億円から大幅に改善するものの、必達目標と掲げていた黒字化は絶望的な状況だ。急激な円高という逆風があったとはいえ、昨年度までのリストラ効果は大きい。今度こそ間違いなく黒字化できる、と考えていただけに、集まった幹部は、誰もが深いため息をつき、うなだれた。
今期の折り返し地点すら迎えない時期での黒字化断念。最大の要因は、ドル箱である北米市場の需要が想定を大きく下回ったことだ。米ディスプレイサーチの調べによると、10年の北米の市場規模は年初予想から300万台ほど落ち込み、3850万台になる見通し。北米だけでなく欧州なども伸び悩んでおり、ソニーは期初に社内で掲げた世界販売計画2700万台を200万台ほど引き下げざるをえなかった。
計画の下方修正を迫られているのはソニーだけではない。しかし、ソニーの苦悩が深いのは、テレビの原価の7割を占めるキーデバイス(基幹部品)である液晶パネルを、まったく内製していない点にある。
液晶パネルの価格は年間におよそ2割のペースで価格低下が進んでおり、倉庫に保管して来年に使い回すわけにはいかない。いわば生鮮食品のようなものだ。販売計画の下方修正に合わせてパネルメーカーに調達のキャンセルを申し入れなければ、そのまま来期以降の損失につながってしまうリスクがある。
ところが、キャンセルすればすべてが丸く収まるわけではない。キャンセルが、ドミノ式に将来にも難題をもたらす。緊急会議で話し合われたのは、「今期急遽調達のキャンセルを申し入れるにもかかわらず、来期にまた調達を拡大することをパネルメーカーは理解してくれるのか。特にサムスンは納得してくれるだろうか」という点だった。
ソニーは来12年3月期には、販売台数4000万台を狙う。サムスンと折半出資する合弁工場S-LCDから調達するパネルが全体の過半を占めており、工場運営の主導権を握っているのはサムスン。ソニーの販売計画は実現性がない、とサムスン側が判断すれば計画どおりにパネルを調達することは難しい。実際、サムスンは今回の一部キャンセルの申し入れを受けて、「来期4000万台の計画は、本当に達成できるのだろうか」と強い懸念を示しているという。
手はすべて打ったが主導権は取り戻せない
テレビの復活なくしてエレキの復活なし。エレキの復活なくしてソニーの復活なし――。05年6月にハワード・ストリンガー氏が会長兼CEOに就任して以来、テレビ事業の収益化は「プレイステーション3」などゲーム事業の赤字脱却と並んで、最優先の経営課題に据えてきた。
液晶テレビの世界市場シェアはサムスンに続く2位につけている。にもかかわらず、今期も赤字となれば直近5期だけでも合計赤字額は約3200億円に達する。テレビ事業は、デジタルカメラや金融など、ほかの事業の稼ぎに支えられながら延命されているといってもいい状況だ。
もちろん、この惨状に対し、経営陣は決して手をこまねいてきたわけではない。むしろ、打てる手は打った。だからこそ赤字継続はショックなのだ。
ストリンガー会長はトップ就任から終始、エレキ事業の生産設備・人員リストラを進めてきた。特に、ブラウン管時代の非効率な開発・生産体制を引き継いだままだったテレビ事業については、08年末以降に愛知県一宮やメキシコ、東欧の工場を閉鎖・譲渡するなど、生産固定費を大幅に圧縮するアセットライト戦略を突き進めた。
携帯電話端末の合弁会社であるソニー・エリクソンでファブレス(工場を持たない)経営を学んだ吉岡浩副社長が現場に立ち、製品設計も根本から見直している。部品や設計を単純化・共通化できコスト削減につながるなら、デザインへのこだわりも捨てた。スリム化を図りながら販売台数も右肩上がりで拡大させており、その意味ではソニーのブランド力は依然として強いことを証明した。
しかし、それでも黒字化が難しい理由をソニーの経営陣はよくわかっている。「テレビ事業はパネルメーカーに主導権を奪われてきた。そこに忸怩(じくじ)たる思いがある」。吉岡副社長は09年秋、記者を前に胸中を吐露している。
コストの7割を占めるコアデバイスを外部に委ね、2割超の単価下落の中で薄利を確保するビジネスモデルは、外部環境の変化で瞬時に機能不全に陥る。これまでにも、需給逼迫期にサムスン合弁工場からすらもパネルを十分調達できず販売機会を逸失したことや、大量調達した結果高値でパネルをつかみ、損益を大幅に悪化させたこともあった。
安定調達の手法として、シャープの大阪・堺液晶コンビナートで合弁を組み、パネルを共同生産する枠組みを08年に構築した。しかし、数量や価格面で折り合わず、ソニーに供給された数量は極めて限定的だ。
自前のパネル生産投資に踏み切っていれば赤字に悩むことはなかった、ということでもない。世界4位の薄型テレビメーカーであるパナソニックは液晶・プラズマパネルの大半を内製するが、08年度から赤字に沈んだまま。数千億円規模の設備投資で償却負担も重い。液晶パネルメーカーとしては国内最大手のシャープですら、夏場のパネル工場稼働率が急落し、自社でパネルからテレビまでをつくる垂直統合モデルの強みは出せていない。
結局、テレビを取り巻く状況が物語るのは、「最も多く生産するサムスンが、テレビでもパネルでも価格競争力を持ち、産業を主導する」ということだ。足元の北米テレビ市場で、ソニーは市場シェアを伸ばしているが、そのシェアはLGエレクトロニクスから奪ったもの。サムスンはソニーと同程度シェアを伸ばしたため、その差が大きく縮まっているわけではない。
ストリンガー会長は社内の会議で、時折こう発言することがある。「協調を阻むサイロは壊した。アセットライトも進んだ。だが、まだ成し遂げていないことがある。中長期にわたって成長と収益をもたらす、新しいビジネスの創出だ」。
かつて出井伸之前会長が煙たがった、創業者の薫陶を受けた重鎮たちはみな退いている。そのため、ストリンガー会長が創業期の面々と経営手腕で比べられることもない。「ストリンガー会長から指示を受ける執行役員たちは調整型が多い。そのため激烈な意見の衝突はめっきり減っている」(ソニーOB)。
しかし、ソニーは「新しいビジネスの創出」ができない焼け野原ではない。最終製品の分野では一部事業の撤退や関連する製品開発施設の閉鎖などを断行したが、デバイスでは最先端分野の研究開発と設備投資を続けてきた。
たとえばリチウムイオン電池。かつてソニーが圧倒的な強みを持った家電用途の電池は、韓国勢の追い上げが激しい。そこで、事業の軸足を車載電池やスマートグリッド(次世代電力網)用蓄電池など産業用に移すのを急務としている。福島と栃木の既存工場に産業用電池専用のパイロットラインを建設したばかりだ。
また半導体事業も、長崎のシステムLSIの生産ラインこそ東芝に売却したものの、デジタルカメラ、ビデオカメラなどに用いる電子の目、撮像素子には投資を続けている。まだ収益化できる事業には育っていないが、ペンの細さに巻けるフレキシブル有機ELディスプレーや、給電ケーブルなしで、周囲の金属に熱を与えることなく、携帯電話などを充電できるモジュールなどといった研究開発プロジェクトは、関連の学会でも大きな注目を集めている。
米国でインターネットテレビを発表した次の日、デバイス事業のエンジニア約50人がひそかに奈良・天理へ飛んだ。向かった先は、シャープの研究開発拠点。広いホールにはシャープのあらゆる事業のエンジニア約500人が集まり、熱気でむせ返った。
ソニーの最先端のデバイス事業をシャープにアピールする、いわば“技術見本市”。製品ごとでは従来からキヤノンやパナソニック向けに開かれていたが、デバイス事業すべてを横断し、これほど大規模に開かれた例はここしばらくなかった。
ソニーのエンジニアが惜しげもなく披露したのは、電気自動車用バッテリーとして期待されるオリビン型リン酸鉄を正極材料に用いたリチウムイオン電池、裸眼3D映像用の撮像素子、独自開発した静電式タッチパネルなど、ソニーが誇る先端デバイスの数々。シャープの町田勝彦会長と片山幹雄社長も姿を現し、これらのデバイスに見入っていたという。
両社の間には堺のパネル合弁の問題がまだくすぶっており、ここから新しい協業が生まれるかは未知数。だが、少なくともソニー側には次世代デバイスを収益事業に育てるという機運は高まっている。
川上にさかのぼるほど差別化のチャンス
「デジタル時代はハードの差別化が難しいとみんな言うけれど、それは違う。デバイス、さらに先の素材と、川上にさかのぼるほど差別化のチャンスがある。そして、ソニー製品に強いデバイスを載せるために、外販で大胆に稼がなくちゃならないんだ!」
デバイスソリューション事業本部の石塚茂樹本部長が繰り返す、この熱いメッセージを、本社や生産事業所の多くの社員が聞いている。
石塚本部長は09年までデジタルイメージング事業(デジタルカメラ、ビデオカメラ)本部長を務めたが、この事業はソニーにとって直近の成功体験といえるかもしれない。銀塩フィルムカメラ事業を持っていなかったソニーは、スチルカメラの分野では後発組だった。
だがビデオカメラ「ハンディカム」で培った高性能の撮像素子で、銀塩フィルム時代からのカメラメーカーと肩を並べた。テレビ同様価格下落が厳しい中でも、比較的底堅い収益力が維持できているのは、社内で生み出したキーデバイス=撮像素子が支えるからだ。
つまり、デバイスこそが最終製品の競争力の源泉だ。サムスンの高い利益率を支えているのは、液晶パネルや半導体メモリなどのデバイス。そのサムスンの幹部は、「かつてソニーはわれわれの目指すベンチマーク企業だった。が、今は違う。お客さんだ」と言い切る。
「ソニーをほかのどことも異なる企業として維持することを、決意せよ」
米ソニー・エレクトロニクス本社の一角には、60年前にソニーを創業した盛田昭夫氏のこんなメッセージが掲げられている。ソニーが収益力を取り戻すためには、もう一度原点に返り、ほかのどこにもつくれないデバイスを粘り強く生み出していかなければならない。
ソニーのテレビ事業は一見すると、絶好調だ。
10月12日、ソニーは「インターネットテレビ」を発表した。これは、グーグル製の「アンドロイド」とインテル製の高性能半導体を搭載したまったく新しいコンセプトのテレビ。キーボード付きリモコンも付属しており、インターネット閲覧とテレビ番組の視聴という家庭の2大娯楽が、これ1台だけで自在に楽しめる、というものだ。
ソニーは6月にも高精細さが自慢の3Dテレビを発売している。新しい時代を予感させる新型テレビを次々に打ち出しており、テレビにおけるトレンドリーダーとしての地位は復権しつつあるかのようだ。
新興国市場でも追い風が吹き始めている。韓国のサムスン電子やLGエレクトロニクスが上位を占めてきたインドの薄型テレビ市場で今年の夏、ソニーが初めてシェアトップに躍り出た。新興国市場でも、急速に「SONY」の4文字が輝きを増してきている。
サムスンが握る生命線 収益化できない迷路
ところが、内実は決して輝いてはいない。華やかな新製品発表、販売台数の躍進とは裏腹に、収益展望は急速に不透明感を増している。テレビはソニーの売り上げの約15%を占めており、単一製品としては最大事業。かかわっている社員も多く、まさにソニーを象徴する製品だ。赤字に悩み続けるテレビ事業は、跛行を続けるソニーの縮図である。
8月下旬、東京・品川にあるソニー本社ビルの会議室。ここにテレビ事業の幹部数十人が招集され、緊急会議が開かれた。会議で明らかにされたのは、今2011年3月期もテレビ事業の赤字が続く可能性が高いというシナリオだった。
はじき出された赤字見通しはおよそ250億円。前期の赤字750億円から大幅に改善するものの、必達目標と掲げていた黒字化は絶望的な状況だ。急激な円高という逆風があったとはいえ、昨年度までのリストラ効果は大きい。今度こそ間違いなく黒字化できる、と考えていただけに、集まった幹部は、誰もが深いため息をつき、うなだれた。
今期の折り返し地点すら迎えない時期での黒字化断念。最大の要因は、ドル箱である北米市場の需要が想定を大きく下回ったことだ。米ディスプレイサーチの調べによると、10年の北米の市場規模は年初予想から300万台ほど落ち込み、3850万台になる見通し。北米だけでなく欧州なども伸び悩んでおり、ソニーは期初に社内で掲げた世界販売計画2700万台を200万台ほど引き下げざるをえなかった。
計画の下方修正を迫られているのはソニーだけではない。しかし、ソニーの苦悩が深いのは、テレビの原価の7割を占めるキーデバイス(基幹部品)である液晶パネルを、まったく内製していない点にある。
液晶パネルの価格は年間におよそ2割のペースで価格低下が進んでおり、倉庫に保管して来年に使い回すわけにはいかない。いわば生鮮食品のようなものだ。販売計画の下方修正に合わせてパネルメーカーに調達のキャンセルを申し入れなければ、そのまま来期以降の損失につながってしまうリスクがある。
ところが、キャンセルすればすべてが丸く収まるわけではない。キャンセルが、ドミノ式に将来にも難題をもたらす。緊急会議で話し合われたのは、「今期急遽調達のキャンセルを申し入れるにもかかわらず、来期にまた調達を拡大することをパネルメーカーは理解してくれるのか。特にサムスンは納得してくれるだろうか」という点だった。
ソニーは来12年3月期には、販売台数4000万台を狙う。サムスンと折半出資する合弁工場S-LCDから調達するパネルが全体の過半を占めており、工場運営の主導権を握っているのはサムスン。ソニーの販売計画は実現性がない、とサムスン側が判断すれば計画どおりにパネルを調達することは難しい。実際、サムスンは今回の一部キャンセルの申し入れを受けて、「来期4000万台の計画は、本当に達成できるのだろうか」と強い懸念を示しているという。
手はすべて打ったが主導権は取り戻せない
テレビの復活なくしてエレキの復活なし。エレキの復活なくしてソニーの復活なし――。05年6月にハワード・ストリンガー氏が会長兼CEOに就任して以来、テレビ事業の収益化は「プレイステーション3」などゲーム事業の赤字脱却と並んで、最優先の経営課題に据えてきた。
液晶テレビの世界市場シェアはサムスンに続く2位につけている。にもかかわらず、今期も赤字となれば直近5期だけでも合計赤字額は約3200億円に達する。テレビ事業は、デジタルカメラや金融など、ほかの事業の稼ぎに支えられながら延命されているといってもいい状況だ。
もちろん、この惨状に対し、経営陣は決して手をこまねいてきたわけではない。むしろ、打てる手は打った。だからこそ赤字継続はショックなのだ。
ストリンガー会長はトップ就任から終始、エレキ事業の生産設備・人員リストラを進めてきた。特に、ブラウン管時代の非効率な開発・生産体制を引き継いだままだったテレビ事業については、08年末以降に愛知県一宮やメキシコ、東欧の工場を閉鎖・譲渡するなど、生産固定費を大幅に圧縮するアセットライト戦略を突き進めた。
携帯電話端末の合弁会社であるソニー・エリクソンでファブレス(工場を持たない)経営を学んだ吉岡浩副社長が現場に立ち、製品設計も根本から見直している。部品や設計を単純化・共通化できコスト削減につながるなら、デザインへのこだわりも捨てた。スリム化を図りながら販売台数も右肩上がりで拡大させており、その意味ではソニーのブランド力は依然として強いことを証明した。
しかし、それでも黒字化が難しい理由をソニーの経営陣はよくわかっている。「テレビ事業はパネルメーカーに主導権を奪われてきた。そこに忸怩(じくじ)たる思いがある」。吉岡副社長は09年秋、記者を前に胸中を吐露している。
コストの7割を占めるコアデバイスを外部に委ね、2割超の単価下落の中で薄利を確保するビジネスモデルは、外部環境の変化で瞬時に機能不全に陥る。これまでにも、需給逼迫期にサムスン合弁工場からすらもパネルを十分調達できず販売機会を逸失したことや、大量調達した結果高値でパネルをつかみ、損益を大幅に悪化させたこともあった。
安定調達の手法として、シャープの大阪・堺液晶コンビナートで合弁を組み、パネルを共同生産する枠組みを08年に構築した。しかし、数量や価格面で折り合わず、ソニーに供給された数量は極めて限定的だ。
自前のパネル生産投資に踏み切っていれば赤字に悩むことはなかった、ということでもない。世界4位の薄型テレビメーカーであるパナソニックは液晶・プラズマパネルの大半を内製するが、08年度から赤字に沈んだまま。数千億円規模の設備投資で償却負担も重い。液晶パネルメーカーとしては国内最大手のシャープですら、夏場のパネル工場稼働率が急落し、自社でパネルからテレビまでをつくる垂直統合モデルの強みは出せていない。
結局、テレビを取り巻く状況が物語るのは、「最も多く生産するサムスンが、テレビでもパネルでも価格競争力を持ち、産業を主導する」ということだ。足元の北米テレビ市場で、ソニーは市場シェアを伸ばしているが、そのシェアはLGエレクトロニクスから奪ったもの。サムスンはソニーと同程度シェアを伸ばしたため、その差が大きく縮まっているわけではない。
ストリンガー会長は社内の会議で、時折こう発言することがある。「協調を阻むサイロは壊した。アセットライトも進んだ。だが、まだ成し遂げていないことがある。中長期にわたって成長と収益をもたらす、新しいビジネスの創出だ」。
かつて出井伸之前会長が煙たがった、創業者の薫陶を受けた重鎮たちはみな退いている。そのため、ストリンガー会長が創業期の面々と経営手腕で比べられることもない。「ストリンガー会長から指示を受ける執行役員たちは調整型が多い。そのため激烈な意見の衝突はめっきり減っている」(ソニーOB)。
しかし、ソニーは「新しいビジネスの創出」ができない焼け野原ではない。最終製品の分野では一部事業の撤退や関連する製品開発施設の閉鎖などを断行したが、デバイスでは最先端分野の研究開発と設備投資を続けてきた。
たとえばリチウムイオン電池。かつてソニーが圧倒的な強みを持った家電用途の電池は、韓国勢の追い上げが激しい。そこで、事業の軸足を車載電池やスマートグリッド(次世代電力網)用蓄電池など産業用に移すのを急務としている。福島と栃木の既存工場に産業用電池専用のパイロットラインを建設したばかりだ。
また半導体事業も、長崎のシステムLSIの生産ラインこそ東芝に売却したものの、デジタルカメラ、ビデオカメラなどに用いる電子の目、撮像素子には投資を続けている。まだ収益化できる事業には育っていないが、ペンの細さに巻けるフレキシブル有機ELディスプレーや、給電ケーブルなしで、周囲の金属に熱を与えることなく、携帯電話などを充電できるモジュールなどといった研究開発プロジェクトは、関連の学会でも大きな注目を集めている。
米国でインターネットテレビを発表した次の日、デバイス事業のエンジニア約50人がひそかに奈良・天理へ飛んだ。向かった先は、シャープの研究開発拠点。広いホールにはシャープのあらゆる事業のエンジニア約500人が集まり、熱気でむせ返った。
ソニーの最先端のデバイス事業をシャープにアピールする、いわば“技術見本市”。製品ごとでは従来からキヤノンやパナソニック向けに開かれていたが、デバイス事業すべてを横断し、これほど大規模に開かれた例はここしばらくなかった。
ソニーのエンジニアが惜しげもなく披露したのは、電気自動車用バッテリーとして期待されるオリビン型リン酸鉄を正極材料に用いたリチウムイオン電池、裸眼3D映像用の撮像素子、独自開発した静電式タッチパネルなど、ソニーが誇る先端デバイスの数々。シャープの町田勝彦会長と片山幹雄社長も姿を現し、これらのデバイスに見入っていたという。
両社の間には堺のパネル合弁の問題がまだくすぶっており、ここから新しい協業が生まれるかは未知数。だが、少なくともソニー側には次世代デバイスを収益事業に育てるという機運は高まっている。
川上にさかのぼるほど差別化のチャンス
「デジタル時代はハードの差別化が難しいとみんな言うけれど、それは違う。デバイス、さらに先の素材と、川上にさかのぼるほど差別化のチャンスがある。そして、ソニー製品に強いデバイスを載せるために、外販で大胆に稼がなくちゃならないんだ!」
デバイスソリューション事業本部の石塚茂樹本部長が繰り返す、この熱いメッセージを、本社や生産事業所の多くの社員が聞いている。
石塚本部長は09年までデジタルイメージング事業(デジタルカメラ、ビデオカメラ)本部長を務めたが、この事業はソニーにとって直近の成功体験といえるかもしれない。銀塩フィルムカメラ事業を持っていなかったソニーは、スチルカメラの分野では後発組だった。
だがビデオカメラ「ハンディカム」で培った高性能の撮像素子で、銀塩フィルム時代からのカメラメーカーと肩を並べた。テレビ同様価格下落が厳しい中でも、比較的底堅い収益力が維持できているのは、社内で生み出したキーデバイス=撮像素子が支えるからだ。
つまり、デバイスこそが最終製品の競争力の源泉だ。サムスンの高い利益率を支えているのは、液晶パネルや半導体メモリなどのデバイス。そのサムスンの幹部は、「かつてソニーはわれわれの目指すベンチマーク企業だった。が、今は違う。お客さんだ」と言い切る。
「ソニーをほかのどことも異なる企業として維持することを、決意せよ」
米ソニー・エレクトロニクス本社の一角には、60年前にソニーを創業した盛田昭夫氏のこんなメッセージが掲げられている。ソニーが収益力を取り戻すためには、もう一度原点に返り、ほかのどこにもつくれないデバイスを粘り強く生み出していかなければならない。
PR
この記事にコメントする