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FOMA網併用が徒となるドコモLTEの料金体系
 NTTドコモは8日、、年内に開始するとしていたXi(クロッシィ)サービスを12月24日から提供開始すると発表した。Xiは、最大37.5Mbpsの通信速度をサポートしたLTEを利用するサービスである。サービス開始直後はエリアが限られており、LTEのサービスが受けられない地域ではFOMA網を利用することになる。LTEの帯域は、現在最速のUQコミュニケーションズによるモバイルWiMAXに匹敵するのだが、予想された通り、PCのデータ通信に最適化されたサービスというより、高速化された携帯電話サービスという色彩が強い。
●縛りやキャンペーンの存在するXiの料金体系
 それを最も強く感じるのは、料金体系である。複数の料金プランに制約を前提にした割引やキャンペーンのからんだ複雑で分かりにくい携帯電話の料金体系は、Xiサービスにも引き継がれている。端末の価格を割り引いたり、2年間利用することを前提に利用料金を割り引いたりと複雑で、注意書きがたくさんある。帯域制限も受け継がれており、極めて“ケータイ的"な印象だ。
 Xiの料金体系は、大きく分けて、2年縛りとなる「Xiデータプランにねん」と、2年縛りのない「Xiデータプラン」の2種類。いずれも2段階制定額に青天井の容量拡張を組み合わせたもので、3MBまで、5GBまでの2段階の定額プランと、それを超えると2GBごとに2,625円が加算されていく仕組みを合わせたものとなっている。つまり、5GBを超えると、使った分だけ、2GBごとに上限なく2,625円が加算されていく。
 現在NTTドコモは3.5Gサービス(FOMA)において、上限のあるデータ通信サービス(定額制サービス)を提供しており、こと上限料金の設定という点でXiは後退してしまったと言える。データ専用端末によるFOMAのデータ通信は、2年縛り前提なら月額5,985円を上限とした定額制となっているのに、FOMAより電波の利用効率が良いハズのLTEを用いたXiに上限設定がないのはなぜなのだろう。
 ややこしいのは、2012年4月30日までは、「スタートキャンペーン」と称して、上限を4,935円(Xiデータプランにねん)、あるいは6,405円(Xiデータプラン)に設定した定額制料金が設定されていることだ(対応プロバイダ料金は別)。つまり最大で約16カ月は、定額制で利用でき、しかもFOMAのみの2年縛りより1,000円ほど毎月の利用料金が割安になる(2年縛りのXiデータプランにねんの場合)わけだが、それでも残りの8カ月は青天井で利用することが求められる。
 キャンペーン期間終了後は、2年縛りで月額6,510円(5GBまで)で、2GBごとに2,625円加算だから、2年間の利用を前提にすると、FOMAのデータ通信のみを利用するユーザーでも、Xiデータプランにねんに入って、最後の8カ月を5GBを超えないよう注意して使った方が、利用料金だけなら安くなる、ということになる。ただし端末代が別途かかるので、トータルでどれくらい違うかは、現時点では不明だ。
●現実のデータ通信に即していないドコモの想定
 ハッキリいって、ここまで書いてきただけで、筆者はイヤになった。制約や注意書きの多い料金体系はもちろん、対応プロバイダ料金などのオプション課金の存在、そして決定的なのは、青天井の料金体系である。世界の大半の携帯電話会社が採用を決めているという理由で、LTEを将来のモバイルブロードバンドの主役と考えている人は多いようだが、こんなにややこしいサービスなら筆者はまっぴらごめんだ。
 そもそも広帯域のネットワークに期待するのは、その帯域に見合った利用であり、サービスだ。当然、帯域の狭いサービスよりデータの使用量は増える。料金を青天井にした上で、一定以上の利用に対しては帯域制限をするというのでは、何のためのブロードバンドサービスなのだろうと思う。Xiサービスでも従来同様、直近の3日間のデータ通信料が300万パケット(約370MB)以上になった利用者に対して、帯域制限を行うという。3日間でたったの370MB、月間で5GBという規制は、3.5Gであれば妥当なものかもしれないが、ブロードバンドを名乗るサービスの規制としては似つかわしくない。
 もちろん、現在の定額制をベースにしたInternetサービス(回線を含む)において、ごく一部のユーザーが大半の帯域を使っていることが問題視されていることは理解している。多くのユーザーの利益を守るために、あまりにも帯域を消費するユーザーに対しては、何らかの措置が必要だということも理解する。が、370MBに5GBでは、次世代の高速モバイルブロードバンドという看板が泣く。まるで、北米のキャリアが、3Gによる年間契約のデータ通信サービスに対して現在課している容量制限のようだ。北米では、3Gのデータ通信サービスは、もっぱら企業向けで、個人で契約するユーザーは極めて限られている。
 NTTドコモは、この5GBという容量の目安として、Webサイト閲覧17,500回(1ページ300KB程度を想定)、メール送受信(1KB程度を想定)で約524万通、動画(平均512Kbpsを想定)で約1,370分、音楽(1曲4分、約4MBを想定)で約1,250曲、という例を挙げている。音楽はともかく、その他の設定で前提とされているデータ量は、PC用のデータ通信というより、iモードのデータ通信ではないかと思う。Flashの貼られたページを閲覧すれば、1MBなど軽く超えるし、PDFや高解像度のJPEGイメージが添付されたメールが送られてくるのがPCのデータ通信だ。
 ここ数年、筆者が利用しているサービスに、NFL Game Passというものがある。これは、NFL(アメリカンフットボールのプロリーグ)が、国外在住のファン向けに、NFLの試合をリアルタイムでインターネット中継するサービスだ。料金は1シーズン279.99ドル(2010年シーズンの場合)だが、シーズン途中からの加入用に割引料金も設定されている。今シーズンで3年目だか4年目で、昨年からHD化した。最大3Mbpsの720pによる生中継である(その前はラジオの有償中継だった)。3Mbps以下でも中継を見ることは可能だが、画面がノイズだらけになり、肝心のボールの行方を追うことが難しくなる。
 NFLの試合は、米国東部時間の日曜13時、16時、20時半の3パターンに、月曜日の20時半の4回に分けて行なわれる。それぞれ日本時間にして、月曜日未明の3時、6時、10時半、そして火曜日朝の10時半ということになる(サマータイムが終わった11月以降の場合)。筆者はこのスケジュールに合わせて、日曜日は夜の20時にはベッドに入ることにしているが、10時半スタートのゲームに関しては、自宅で見ることができないことも少なくない。たとえば11時から12時までの発表会や説明会に出席すると、帰宅するのは13時頃で、以前は試合の結果を歴史として知ることがほとんどだった。
 ところがUQのWiMAXがあれば、とりあえず自宅に戻る前に、コーヒーショップでも公園でも、ノートPCを開けば試合の後半をそのまま見ることができる。現時点でこれが可能なのはWiMAXだけだ。ほかのワイヤレスサービスでは、理論上の通信速度は十分でも、安定して3Mbpsの通信を維持することが難しい。少なくとも都内の地表面(地下や高層ビルの上層階は除く)であれば、どこでノートPCを開いても、その瞬間に米国で行なわれているフットボールの試合を見ることができるというのは、ちょっと前なら考えられなかったことであり、まさにモバイルブロードバンドを実感する。
 おそらくLTEでも、通信の帯域的には同じことが可能だろう。だが、料金体系や帯域制限が邪魔をする。アメリカンフットボールの1試合は約3時間だから、3Mbpsのデータレートでは1試合でおおよそ4GBとなる。現在の料金体系なら2試合目で早くも追加料金が発生するし、月曜朝の試合を見ると、火曜朝の試合は帯域制限で見ることができない、ということになりかねない。筆者にとっては使えないサービスだ。
 もちろん、こうした利用が今のところ一般的とは言えないことは承知している。国内の利用者はわずかだろう。しかし、これは実験でも夢でもなく、すでに実用化された商用サービスなのである。
●原因はFOMA網の併用
 LTEの料金を定額にすることができない理由の1つは、当面はFOMAサービスを併用せざるを得ないからだろう。LTEも、サービス開始直後は、そのサービスエリアは極めて限られる。都内の場合、初期のサービスエリアはおおよそ山手線内プラスアルファといった感じで、つながらない、圏外ばかりと評判の悪かったWiMAXの立ち上げ時と利用範囲に大差はない。
 LTEがWiMAXと大きく異なるのは、サービスエリア外でもFOMAにフォールバックして利用可能であることだ。つまり、遅くなっても、全くつながらないことをまず考えなくて済むことになる。それは大きなアドバンテージに違いないが、FOMA網を併用するがゆえに、データ通信が携帯電話サービスに支障を与えないようにする必要がある。LTEと同じ感覚で、FOMAを使われては困る、ということではないかと思う。
 携帯電話サービスを併用しない(併用できなかった)WiMAXは、サービスエリアの狭さに悩んだ(地方では今も悩んでいる)ものの、併用しないがゆえに携帯電話サービスに起因する制約がない。将来的な可能性は否定しないものの、今のところ、帯域制限や容量制限は存在しない。もちろん、携帯電話サービスに頼れないということは、データ通信だけでエコシステムを作れるか(採算ベースに乗せられるか)、ということでもあり、ここに不安を感じるユーザーも多いのだろう。
 つまり、つながれば高速で料金体系も分かりやすい反面、圏外になる不安と国際的な普及が進むかどうか懸念されるWiMAXと、圏外になる不安はないものの、当面は料金体系が分かりにくく、帯域制限により大量のデータ通信向きではないXiサービスというのが、現時点での色分けとなる。
 おそらくNTTドコモとしては、基地局の整備と、LTEによる利用範囲の拡大を見ながら、料金プランを改訂していこうという考えなのだと思う。エリアの大半をFOMAに依存せず、LTEでカバーできるようになれば、定額制の料金を導入する可能性は十分にあるだろうし、帯域制限も緩和されるのではないかと筆者は考える(問題は、それがいつになるか、だが)。ただ、携帯電話の音声サービスや携帯電話端末によるデータ通信も、いずれはLTEにしていく方向性であることを考えると、XiがWiMAXほどフラットな料金体系になることはないのではないかとも思う。
 また、国際的な普及が確実視されるLTEだが、各国でどのようなバンドプランが使われるのか、まだ結論は出ていない。LTE同士であっても、バンドプランが違えば機器の相互利用はできない。おそらくLTEで国際ローミングが可能になるのは、相当先の話だろう。それに対してWiMAXでは、エリアが限定されるとはいえ、最も利用者の多い米国と日本間で国際ローミングが可能になっている。
 当分の間は、こうした点を考慮しつつ、どんなサービスと契約するのかを決めていくことになるのだろうが、やはり残念でならないのは、Xiが最初から定額を前提とした料金プランを提示できなかったことだ。たとえ定額料金が高くなっても、定額プランを用意して欲しかった。それは、現在のInternetのエコシステムが、広告を前提にしているからだ。定額制でない料金体系は、広告のパケット代をユーザーが負担することを意味する。それが最終的にはユーザーによる広告のブロックを招くかもしれない。そんな料金プランを最大手のNTTドコモが提示したという点に疑問を感じる。
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