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マイクロソフト、日本で医療IT事業 電子カルテを共有
 米マイクロソフトは日本の病院向け情報システム事業に参入する。メーカーごとに規格が異なる電子カルテを簡単にやり取りできるソフトウエアを開発し、大病院と診療所が患者の診療情報を共有できるようにする。日本では政府が医療サービスの高度化と医療費抑制を目指して電子カルテの普及を急いでおり、医療IT(情報技術)市場が拡大すると判断した。成長が期待される医療関連市場ではパナソニックや富士フイルムが事業強化策を打ち出すなど、異業種の参入が活発になっている。
 マイクロソフトは東芝子会社の東芝メディカルシステムズ(栃木県大田原市)やJFEスチール子会社のJFEシステムズ(東京・墨田)と共同で病院向けシステムを構築する。このほど立川病院(東京都立川市)に試験システムを納入した。
 他のシステム会社とも組み、今後3年間に30以上の病院にソフト導入を目指す。
 システムは地域の中核病院に導入する。インターネットを介して小規模病院や診療所と接続し、診療録などの電子カルテや検査画像をやり取りできるようにする。
 日本の電子カルテの普及率は大病院で5割弱、診療所は1割弱。統一された規格はなく、富士通やNECなどの独自規格が乱立している。マイクロソフトのシステムはほぼすべての規格に対応。異なる規格の電子カルテが簡単にやり取りできる。ソフトの価格は20の病院を結ぶ場合で500万円から。
 大病院と診療所が医療情報を共有すれば、患者が病院を変わるたびに何度も検査を受けたり、投薬が重複したりする事態を防げる。「初期の診察は診療所、手術や精密検査は大病院」といった役割分担で地域の医療サービス効率化にもつながる。
 マイクロソフトは欧米では電子カルテも手掛けているが、日本では富士通、NECなどが強いため、各社の電子カルテや検査ソフトを統合するシステムを開発して医療IT市場に参入する。
 政府は患者が病院を移っても、重複した検査や診察を受けずに済む「どこでもMY病院」構想を掲げ、2013年度までの5年間で地域の医療体制整備に2350億円を投じる。このうち1割をIT関連に当てる計画だ。
 6月に決めたIT戦略の工程表には地域医療連携や全国のどの病院からでも診療履歴を呼び出せる医療データベースの整備が盛り込まれた。
 日本の医療費は年間約34兆円。高齢化でさらに膨らむとみられる。パナソニックが15年度にヘルスケア事業で売上高4500億円以上、東芝が15年度に医療関連の売上高で1兆円を目指すなど、異業種が市場開拓を競っている。こうした競争は医療サービスの質向上と価格低下につながる可能性がある。



東芝、調達費1兆円削減 3年で海外比率7割に上げ
 東芝は部品・材料などの外部調達費を3年間で計1兆円削減する。パソコンや薄型テレビなどデジタル機器部門が主な対象。中国やインド、ベトナム、ロシアなど新興国で調達先を新規開拓。調達費に占める海外比率を2012年度に09年度比13ポイント増の70%に引き上げる。デジタル機器の主戦場と位置付ける新興国でのコスト競争力を高めるとともに為替変動の影響を抑える。
 東芝の09年度の部材の調達額(連結ベース)は3兆2000億円。デジタル機器部門、家電部門が売上高に占める割合は約4割あるが、価格競争が激しい。付加価値の高い半導体など中核部品でデジタル機器の商品力を高めつつ、コスト削減を進めるには汎用的な電子部品の調達先を海外に広げる必要があると判断した。液晶パネルなど大型部材でもより低コストの調達を検討する。
 新興国での調達量の拡大に向け、インドやベトナムに調達担当者を配置した。近くロシアや東欧地域にも担当者を置く。現地で調達の専門家も採用し、有望な部品・資材メーカーの開拓を急ぐ。
 東芝ブランドのテレビやパソコンの設計・生産を委託している海外メーカーとの原価低減活動も始める。委託先に生産技術者などを派遣、生産現場や材料調達の効率化を進めコスト削減を支援する。海外調達費の約20%を生産委託費が占める。まずはパソコンから始め、他の製品に広げる。
 東芝は07年、テレビやパソコンなど異なる事業部が液晶パネルなど同じ部材をそれぞれ個別に仕入れていたのを本社が一括購買する方法を採用。09年度下期には一括購買の金額が調達額の40%を超えた。同比率の向上にも努め調達費の削減目標の達成につなげる。
 今後は進出していない新興国での調達先の拡大にも踏み込み、コスト競争力を高めて新興国市場を開拓する。



クラリオン、カーナビ開発を中国移管 技術者3倍に
 クラリオンはカーナビゲーションシステムの開発機能を日本から中国へ移管する。まず年内にも新興国向け低価格品から移す。中国拠点の技術者を2012年度までに現在の3倍以上に増やす。これまで中国の拠点では低価格帯のカーオーディオ開発や仕様の変更に限っていた。成長する新興国でコスト競争力を高めるには主力製品まで踏み込んで体制を刷新、地域ニーズに合った開発が必要と判断した。
 クラリオンはアモイ(福建省)の拠点にカーナビの開発機能を順次移す。日系や中国の自動車メーカーへのOEM(相手先ブランドによる生産)品のほか、ブラジルやタイ、インドなどに出荷する低価格ナビの開発を始める。日米欧に出荷する高級カーオーディオの開発も手掛ける。
 指導役となる日本人技術者の中国駐在を増やすほか、中国人技術者の採用も拡大する。現在、190人(うち日本人14人)いる技術者を12年度までに600人に増やす。15年度には1000人体制にすることも検討中。日本で開発トップだった役員を今春から中国に駐在させるなど、人材配置も大幅に見直していく。
 日本の開発拠点は先進国の中高級車向けOEMや、高性能な市販のカーナビに特化する。
 開発の移管で原価低減を狙う。人件費を日本に比べて抑えられるうえ、現地調達する安価な部品にあわせて設計できるようにする。新興国では機能を絞った低価格ナビが求められるほか、先進国でも売れ筋製品の価格帯が低下し価格競争が激化している。
 カーナビやカーオーディオの先進国需要が伸び悩むなか、自動車の普及が進むブラジルやインドなど新興国市場の開拓は車載機器業界でも重要課題の1つ。クラリオンは中国では12年度に09年度比2倍の200億円の売上高を目指している。
 電機各社はこれまで日本で開発した製品を新興国向けに仕様を変更して販売するのが主流。最近は中国など現地の開発体制を強化する方針を打ち出しているが、クラリオンのように主力製品まで移管する例は珍しい。



米メディアが事業再編加速 ニューズ・ディズニー…
 テレビから映画、新聞・雑誌までを抱える米複合メディア大手が事業再編を急いでいる。ニューズ・コーポレーションは中国事業を大幅縮小。ウォルト・ディズニーも映画部門の不採算事業を売却する。新興ネット勢の台頭でメディア大手の経営は転換期を迎えている。成長が見込めない事業の整理で戦線を縮小する一方、戦略投資はコンテンツを持つ強みを生かせる分野に集中する。
 ニューズは中国のテレビ3局などの経営権を上海市政府系メディア大手の関連投資ファンドに売却することを決めた。「メディア王」と呼ばれるニューズのマードック会長は1990年代から中国事業の拡大に意欲を燃やしてきたが、今後はアジア戦略では中国からインドに軸足を移すとみられている。外国メディアに神経をとがらせる中国当局の規制が緩まなかったうえ、ニューズ自身に余裕がなくなった。
 同社はネット上の記事の有料化など保有コンテンツの価値を収益に結びつけるグループ戦略を掲げ、技術獲得やノウハウ蓄積への先行投資が必要。欧州事業を盤石にするための英衛星放送大手BスカイBの完全子会社化には約80億ポンド(約1兆円)が必要だ。電子書籍ベンチャーなどには積極投資するが、成長性が見えない事業を選別する。
 ディズニーは映画部門の重荷だった「ミラマックス」事業の売却を決定。一方、キャラクタービジネスへの投資は積極的に進める。米コミック大手マーベル・エンターテインメント買収に続き、新興ゲームソフト会社も買収する。安定的な人気の自社キャラクターを使ったコンテンツや商品の開発体制を整える。
 複合メディア大手の新聞・雑誌事業は印刷メディアが主力のライバル企業に対して「持久戦」で優位に立ちつつある。タイムワーナー(TW)の出版部門タイムは4~6月期に広告収入が増えたが、ワシントン・ポストはニューズウィーク売却を迫られた。財務体質や事業規模など地力の差が出ている。新聞では、ニューズ傘下の米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが米紙ニューヨーク・タイムズの牙城のニューヨークで市内版を投入し、攻勢をかけている。
 複合メディア大手の4~6月期決算は広告需要復調などで増収増益が相次いだが、合理化のほか、テレビ、映画など従来事業に集中する「本業回帰」が経営を安定させたにすぎない。TWは低迷続きのAOLの分離が業績回復に寄与。各社ともネット時代の収益モデルは確立しきれていない。



3Dテレビ値下がり パナソニックなど春から2割安
シャープなど参入続々
 立体的な映像を楽しめる3次元(3D)テレビの店頭価格が下落している。先行したパナソニックとソニーの製品は今春の発売時から早くも約2割下がった。2社に続いてシャープが参入し、販売競争が激化した。3Dに対応していない従来製品に比べると依然として3~5割高いが、東芝や三菱電機も発売を予定しており、今後も値下がりが進みそうだ。
 発売当初は従来製品に比べ5割以上高いモデルもあっただけに、値下がりは3Dテレビの普及を後押しする。一方で、メーカー側には3Dという付加価値をつけることでテレビ価格の急速な値下がりに歯止めをかける狙いがある。普及と価格維持のバランスに頭を悩ませそうだ。
 東京と大阪の大手家電量販店で日本経済新聞社が独自に調査した。パナソニックのプラズマテレビ「3Dビエラ」は50型で31万~35万円が中心。約43万円だった4月下旬の発売時に比べて2割安い。ソニーの液晶テレビ「3Dブラビア」は40型で24万~25万円台が中心。6月の発売時より2割弱安い。売れ筋製品ほど下落率が大きい。
 薄型テレビ最大手のシャープは7月末、3D液晶テレビ「3Dアクオス」を投入した。46型製品が36万円台中心と現状では発売時からあまり下がっていないが、パナソニックやソニーと同じ水準に近づいていくとの見方が多い。量販店によると、3Dテレビは既存の薄型テレビより1カ月程度値下がりが始まるのが早いという。
 ヨドバシカメラマルチメディア梅田店(大阪市)の担当者は3Dテレビについて「休日なら15台ほど売れることもあり、想定以上」と話す。「台数では3社がほぼ横並びで競っている」(ビックカメラ有楽町店)
 国内のテレビ市場はエコポイント制度などの政策を受けて好調だ。調査会社のGfKジャパン(東京・中野)は12日、2010年上半期(1~6月)の薄型テレビ販売台数が前年同期比69%増の947万台だったと発表した。10年通年では50%増の2083万台と、初めて2千万台を超すと予測している。
 現状では全体に占める3D製品の割合は低い。GfKジャパンによると、全国の量販店で販売されている40型以上のうち3Dの台数比率は2.6%(8月2~8日集計)。金額でも5.9%だ。
 8月下旬以降、東芝や三菱電機が発売する予定で、日立製作所も今年度内に参入する方針。競争激化が一層の価格下落につながり、本格的な普及期を迎えるかが焦点だ。



パソコン市場変調の兆し エイサー7月売上高4割減
 【台北=新居耕治】急回復が続いてきたパソコン需要に不透明感が広がってきた。パソコン世界2位の台湾・宏碁(エイサー)の7月の売上高は前月比4割減に落ち込んだ。需要が予想ほど伸びず、流通在庫が膨らんでいるもよう。スマートフォン(高機能携帯電話)などが好調を持続する一方で、パソコンは液晶テレビとともに調整色が強まってきた。
 エイサーの7月の売上高は前年同月比37.7%減(前月比40.9%減)の262億台湾ドル(約700億円)となり、昨年1月以来1年半ぶりに前年同月実績を割り込んだ。
 エイサーのほか、米国のヒューレット・パッカード(HP)、デル、東芝などから幅広く生産を受託し、世界のノートパソコン生産の8割程度を担う台湾のEMS(電子製品の受託製造サービス)大手4社の売上高も7月は前月比で軒並み減少。中でも仁宝電脳工業(コンパル)は同25.2%減となった。
 エイサーは売上高急減の原因を「8月からのモデルチェンジを前に、流通業者が仕入れを手控えた」としており、8月以降の販売回復を見込んでいるが、「8月以降、需要が回復したとしても成長スピードは鈍る」(仁宝)との見方も広がっている。
 パソコンは金融危機の影響で需要が落ち込んだ後、昨年後半から急回復してきた。米マイクロソフトの新基本ソフト(OS)「ウィンドウズ7」の発売も追い風になり、例年なら需要が落ち込む1~3月以降も好調が続いた。このため市場全体に強気の見通しが広がったことが「店頭からメーカーまでのサプライチェーン全体での在庫増につながった」(大和証券キャピタル・マーケッツの台湾現法アナリスト、光田寛和氏)という。
 パソコン需要減速の影響は部品にも広がっており、主要部品のDRAM相場はここにきて弱含んでいる。台湾のDRAM大手、南亜科技の白培霖・副総経理は「パソコンメーカーの在庫調整は8月いっぱい続く」とし、「10~12月の動向も予想しづらい」としている。
 パソコンと同様、液晶テレビも中国での在庫が積み上がっており、液晶パネルの出荷も鈍っている。パネル大手の台湾・友達光電(AUO)の7月の売上高は前月比10%減少。奇美電子も大型パネルの出荷量が2カ月連続で前月を下回っている。
 今後は在庫調整を経て急回復局面から通常の成長ペースに移行できるかが焦点になりそうだ。



GM、ウィッテーカーCEO退任 後任アカーソン取締役
 【ニューヨーク=小高航】米ゼネラル・モーターズ(GM)のエドワード・ウィッテーカー会長兼最高経営責任者(CEO)は12日、9月1日付でCEO職を退くと発表した。会長職も今年末で退く見通し。後任には取締役メンバーのダニエル・アカーソン氏が就任する。
 通信大手AT&T元会長のウィッテーカー氏は昨年7月の「新生GM」発足と同時に、筆頭株主の米政府が指名する形でGMの会長に就任した。昨年末にはGM生え抜きのヘンダーソンCEOを事実上解任、CEO職を兼務していた。
 アカーソン氏は米通信大手などで最高財務責任者(CFO)職などを歴任してきた。



NESTAGE再生法申し立て ゲオが支援で基本合意
 ゲームソフト販売のNESTAGE(大阪府吹田市)は12日、民事再生手続き開始を大阪地裁に申し立てたと発表した。2日付でジャスダック上場を廃止、信用悪化で資金繰りのメドが立たなくなった。負債総額は約15億円。申し立てを受け、同業のゲオは同日、経営再建のスポンサー候補として同社と基本合意したと発表。資産査定を経て、スポンサー契約を結ぶ。同社支援でゲームソフト販売のシェア拡大につなげる。



三菱レイヨン 、婦人服用長繊維の生産能力6割減 工場1カ所閉鎖
 三菱レイヨンは12日、来年3月末をめどに、婦人服などに使う「アセテート長繊維」の生産設備を集約し、生産能力を6割削減すると発表した。富山事業所(富山市)内に2カ所ある工場を1カ所に減らして設備の稼働率を高める。
アセテート長繊維の生産を集約する三菱レイヨンの富山事業所(富山市)
 同社は高級婦人服などに使うトリアセテート長繊維と、衣料の裏地などに使うジアセテート長繊維を手掛けている。両繊維は同事業所内の別工場で生産しているが、ジアセテートの工場を閉鎖して設備を移管し、トリアセテートの工場に集約する。
 工場の年産能力は両繊維合わせて計7000トンと現在の4割程度に削減する。
 カジュアル衣料の台頭やリーマン・ショックで米国の高級婦人服向け需要などが低迷し、設備稼働率が低下しており、今後も需要の急激な回復は見込めないと判断した。
 また同社は同日、溶媒などとして使う工業薬品のDMF(ジメチルフォルムアマイド)事業から撤退すると発表した。横浜工場(横浜市)と中国工場(江蘇省)で生産していたが、中国の現地メーカーなどとの競争が激化し今後も収益を見込めないと判断した。横浜工場は閉鎖済みで中国工場を2011年3月末までに閉鎖する。



製造業を追い出すな 雇用・再成長の岐路に立つ
 円が急騰し、株が下落した。手をこまぬいていれば、雇用や投資の海外流出が一段と加速するだろう。
 「国内空洞化は是が非でも阻止したい。だが、かつてのような生産能力を維持できるか、正直言って難しい」。ホンダの伊東孝紳社長は7月の会見でこう述べた。国内市場の成長が見込みにくいうえに、急激な円高のダブルパンチ。伊東社長の言葉は、多くの輸出企業が抱える危機感や焦りをずばり言い当てている。
 2年前のリーマン・ショック以前まで日本は年間1000万台を超える世界一の自動車生産大国だった。状況は急激に変わっている。円高に背中を押されて「日本車」そのものが日本から出て行く兆しがある。
15年前より厳しく
 日産自動車が7月に日本で発売した「マーチ」は実はタイでつくっている。日本で月5千台以上売れ、今やベンツやフォルクスワーゲンを上回る「輸入車」のベストセラーだ。同社のカルロス・ゴーン社長は一昨年末の時点で「円高が行き過ぎれば、日本の製造業大国としての地位は揺らぐ」と警鐘を鳴らしていた。
 1ドル=80円台半ばの円高は、日米摩擦が激化した1995年にも一度はたどった道である。だが当時に比べ、製造拠点が海外にシフトし、国内の雇用の場が失われる空洞化のリスクは確実に高まっている。
 理由は2つ。一つはアジア各国が生産基地としての実力を急速に高めたことだ。部品点数3万点で複雑な擦り合わせ商品である自動車の逆輸入が成り立つなら、もはや「日本でしかつくれないモノ」は数少ない。
 アジアに追い越された分野もある。日立製作所の事業統合で発足した半導体のルネサスエレクトロニクス。7月末に発表した事業計画によると、微細加工する最先端の半導体チップは台湾メーカーに生産委託し、国内生産は微細度の低い中級品に特化するという。製造業国家としての日本の足元はすでに相当ふらついている。
 もう一つは国内でのリストラや経費節減の「やり尽くし感」だ。債務・設備・雇用の「3つの過剰」が言われ始めた95年当時の日本企業は高コスト体質。逆に言えばリストラの余地も大きかった。対して今回、金融危機を乗り切るために経費を切り詰めた後の円高だ。さらなるコストダウンには海外展開ぐらいしか有力な選択肢がない。
 日本経済の本質的な弱さにもかかわらず、これだけ円高が進んだ背景には政府・日銀の無為無策がある。輸出倍増を掲げる米オバマ政権をはじめ世界が自国通貨安を志向し、外需拡大を景気対策の柱に据えた。
 その中で日本は「自国通貨の相場に政府が関心を示さない」「参院で野党に多数を握られ大胆な政策に踏み切れない」と見透かされている。日銀も10日の金融政策決定会合で新たな手を打たなかった。
法人税下げ急務
 政府は米欧に通貨の安定を働き掛け、場合によっては単独の為替介入もためらうべきではない。欧米の金融緩和が円高の引き金であることを考えると、日銀は一段の緩和も視野に入れるべきだ。
 ある大企業首脳は3つの困難を指摘する。法人税が下がらない。温暖化ガスの25%削減を課せられる。そして円高が果てなく進む。「日本から出て行け」と言っているに等しいように聞こえるという。
 6月の成長戦略で打ち出した法人税率の引き下げをどうするのか。各国との貿易自由化の取り組みに動くのか。日本を「ビジネスチャンスの多い国」につくり替える取り組みが欠かせない。外資を呼び込み、雇用を増やす切り札にもなる。
 財源がないのなら、子ども手当や農家への所得補償などの大盤振る舞いを棚上げしてでも考えるときに来ている。もちろん財政危機への展望を示す必要はあるが、企業存亡の問題は働き手である生活者の問題だ。
 今年3月末の時点で日本企業の現預金は144兆円ある。金融危機を乗り切る過程で投資を手控え、余剰資金をせっせと蓄えた。いずれ世界経済が復調すれば、出番を待つこのお金は設備投資やM&A(合併・買収)の形で投資に回る。
 それが国内に投じられるのか、海外に向かうのか。政府が円高を放置し、新しい経済の見取り図を示さなければ、「日本再成長」の貴重な原資は、日本を素通りするに違いない。
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