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グーグル共同創業者が語るOS開発の狙い、独占批判への回答
 米グーグル共同創業者のラリー・ペイジ氏がこのほど東京で日本経済新聞などと会見し、開発中の新パソコンOSについて「ブラウザーとOSの固定的な境目をなくす。オープンソース型のネットブック向けプラットフォームにしていく」と説明した。「ほとんどのことがブラウザー内でできる時代には、従来より小さくて単純なOSが適している」と語り、ウェブ時代に最適化されたOSの必要性を強調した。
 パソコン市場は、「ネットブック」と呼ばれる低価格ミニノートがシェアを伸ばしている。その多くは米マイクロソフトの1世代前のOS「Windows XP」を搭載しており、マイクロソフトは09年4-6月期決算で初めてOS事業が大幅な減収に陥った。ネット閲覧が主機能のネットブックが普及する背景には、グーグルなどのネット企業によるウェブ側の高機能化がある。追い打ちをかけるようにグーグルは、端末側からもパソコンの軽装化を進めることになる。
 ラリー・ペイジ氏との主な会見内容は以下の通り。
■「エリックはなかなかOS参入に賛成しなかった」
――パソコン用新OS「Google Chrome(グーグル・クローム)OS」を開発している。ウェブの世界から端末側の世界に事業領域を広げたわけは。
 数年前に(共同創業者の)セルゲイ・ブリン、(最高経営責任者の)エリック・シュミットと私を含む幹部の会議でいろいろ議論していたとき、出席者が持っていたパソコンの大半でパソコン内ソフトのうちブラウザーしか起動していないことに気づいた。それ以来、セルゲイと私は、パソコンのあり方を一から考え直すべきだと強く感じるようになった。
 ネット以前に設計されたパソコンOSにとらわれず、ブラウザーでネットを使うことが主な用途になった現状を前提にしたパソコンを改めて作るべきだと感じた。ただ、OS開発には人材をはじめ多大な経営資源が必要なため、エリックはなかなかOS参入に賛成しなかった。社員が2万人前後になった最近になってようやく、エリックが同意した。OS開発というのはそれぐらい大規模なプロジェクトになるものだ。
――クロームOSは昨年公開したブラウザーの「Google Chrome(グーグル・クローム)」と一体になるのか。
 ブラウザーとOSの固定的な境目はなくなると考えている。ブラウザーを介してウェブ上で大部分のことをできるようにするにはブラウザーの能力をもっと進化させなければならない。一方で、オフラインで操作する場合もブラウザーの中でできるようにしていく。たとえば従来はパソコンにインストールするタイプのソフトが担ってきた3次元グラフィックスの描画もブラウザーの一機能にできるようになった。
 このようなブラウザーの進化はグーグル・クロームで推し進める。ほとんどのことがブラウザー内でできるようになれば、OSのうちブラウザーの外側を担う部分は小さくできるはずだ。ブラウザーでほとんどのことをやるなら、パソコンにソフトをインストールする必要がないし、ソフトのバージョン更新といった面倒もなくなる。パソコンは利用者にとってはるかに簡単で単純な道具になる。
■ソースコードはオープンであるべき
――新OSはオープンソースで開発・配布していく。
 そもそもクロームOSの核は、携帯向けOSの「Android(アンドロイド)」と同様、Linux(リナックス)でオープンソース。学生のころからコンピューター科学者として、インターネットの発展はオープンな環境や標準で実現したと感じていた。ネットの世界ではソースコードはオープンであるべきと思っている。その方が機能や使い勝手はよくなる。
 たとえばブラウザーの世界では、「ファイヤーフォックス」「サファリ」、そしてグーグル・クロームといったオープンソース型がどんどん機能や性能を充実させており、一企業が独自開発する「インターネット・エクスプローラー(IE)」に対する優位を広げている。
――無償OSが普及すれば、利用者は高いライセンス料から解放される。
 いい話だが、我々は(マイクロソフト対抗のような)企業間競争の観点でOS開発を始めたのではない。周囲を見渡して、既存OSはネットとブラウザー主体の今の用途によく機能していないと感じ、よりよく動くOSが必要だと思ったというのが正直な考え方だ。
 ネットブックという低価格で簡易なパソコンが出てきて、パソコンの概念が変わってきた。従来の高価なパソコンと違いキッチンかどこかで気軽に使える。新OSでネットブックがさらに安価になり、ソフトのインストールもメンテナンスも要らない扱いやすいものになれば、利用者にとってパソコンの位置づけを変える大きなインパクトになるだろう。
■企業イメージと理念の一致に苦労
――独占批判などが出るが、「悪にならない」という企業理念が揺らいでいないか。
 コンピューター科学を研究していた学生時代、ソースコードやファイル形式を秘密にして、IT全体の技術進歩の足を引っ張るIT企業を見て、ああいう風にはなりたくないと思ったのが、「悪」にならないという理念の始まりだった。グーグルはいくら大きくなっても、オープンソース、オープンな標準を後押しする。一方で、顧客のデータを人質に取ったりファイル形式を秘密で複雑なものにして使いにくくしたりするようなことをしないという方針を、愚直に貫いていくしかない。
 それでも独禁当局による調査が取りざたされるなど、外から見たイメージを理念と一致させるのに苦労するようになったのは事実だ。これは市場や産業の中での存在が大きくなったのに比べて、社員数の点でグーグルがまだ中堅規模だというギャップに根ざすところが大きい。
 たとえばブリュッセルでも東京でも、グーグルの広報や対政府担当はとても人数が少ない。巨大企業は広報や政府担当に多数の人員を配置して、誤解や不要な問題の発生を最大限回避している。我々も政府や市民に対してきちんとコミュニケーションできるよう人員拡充を進めているが、まだニーズに追い付いていない。
――学生時代になりたくないと思っていた「悪」の存在をどの程度IT市場のなかで縮小させたと思うか。
 我々は非常によく頑張っていると思う。だがまだこれも初期段階だ。
■ミッションをアップデートする時期
――書籍検索の図書館プロジェクトも、関係者はすべて便益を受けるはずなのに、独占ではないかとの批判が出ている。
 どこかの図書館の隅に眠っている本にアクセスできるサービスが実現しようとしているのは素晴らしいことだ。ただ、著者、出版社、図書館がお互いに反目していることが必要以上に疑念を呼んでいる。それに批判している人々も、よりよい代案は出していない。よりよい代案があるなら、そちらに協力したい。
 米国以外にも同様のサービスを広げたいが、多くの国で著作権制度の修正など立法的な措置が必要だろう。人類の共有財産である「知」にすべての人がアクセスできるようにするために、各国政府は行動を起こすべきだ。政府自らがサービス提供をする場合でも、我々は喜んで協力する。
――「世界中の情報を整理する」という企業目標はどの程度達成できたか。
 まだまだ初期段階だと思っている。本当に人々が望む情報を探し出し整理して提示するには、“スーパーマン司書”のような存在がいて、あなたの質問や要望の意味を深く理解して最適な情報を探して提示できなければならないが、今の技術レベルでは遠く及ばない。
 ただ、進歩はしている。情報の構造、言葉のより深い意味などについての理解も進んでいる。他方で、恐らくそろそろこのミッション自体をアップデートする必要がある。OSなどの新分野を包含できていないためで、そろそろアップデートに取り組まなければならない。
■「工学」に人材や資金を投入すべき
――日本や日本人の技術についてどう思うか。
 世界各地にそれぞれ独自の技術的な価値観や得意分野がある。日本人は特に広い意味での工学的な技術に高い価値を見いだし、技術の完成度の高さに熱意を注いできた。様々なガジェットが典型だし、進化したトイレも日本的な工学の追究の成果だ。グーグルは日本製トイレを米本社に導入している。
 そもそも歴史的に人類の生活を変えてきたのは、基本的な工学だ。農業・工業という生産活動、日常生活の両面を、工学が変えてきた。農機具、水道、輸送手段などあらゆる革命を工学が実現してきた。
 ところがこのような基本的な工学が世界的に過小評価されている。日本に来るたびに日本の工学への価値の置き方を称賛したくなる。代替エネルギーも、基本的な工学によって実現していく。風力でも地熱でも同じことだ。だが、世界的に見て人材も資金も投入量が少なすぎると思う。



日経社説 自民と民主は成長戦略の具体策で競え(8/2)
 自民党も民主党も衆院選のマニフェスト(政権公約)では、年金・医療の安心や雇用の安定などを掲げている。その実現には、必要な制度改革に加えて経済成長が欠かせない。増税や失業給付の拡大だけでは、財政再建や国民生活の安定は得られない。各党は衆院選では成長戦略の具体論で競うべきだ。
 自民党の政権公約では「経済成長政策」という項目を設けて「2010年度後半に年率2%の経済成長を実現」「今後10年で1人当たり国民所得を世界トップクラスに」などの数値目標を掲げた。
 だが、目標の実現に向けた具体策は踏み込み不足だ。研究開発の強化や技術革新の推進で、生産性を向上し、産業の高付加価値化を進めるとしているが、どうやってそれを実現するかはっきりしない。
 成長戦略に必要な規制改革についても「消費者行政とのバランスをとりつつ、各種規制のあり方を見直し、発展的経済活動を側面支援する」とあるだけで、どの分野に重点を置くのかなどは示していない。
 成長は大事と言いながら、そのために何をするのかよくわからない。これでは有権者は判断しにくい。
 民主党の政権公約には、成長戦略の項目すらない。同党は「国民の生活が第一。」というキャッチフレーズを掲げ、子ども手当の創設など子育て支援、高速道路無料化、農家への戸別所得補償など、家計への給付などが見えやすい政策を並べた。だが、政権をとったら、日本経済の成長の道筋を全体としてどう描くのかの問いに十分には答えていない。
 国と地方の借金残高が800兆円を超え、主要国では最悪水準の財政赤字をどう減らしていくかは次期政権にとっても重要課題だ。財政健全化は増税や政府の無駄減らしだけでは達成できない。経済が成長して税収が増えなければ、財政の本格的な改善にはつながらない。財政再建にも成長戦略は欠かせない。
 雇用対策も、失業給付など安全網を張るだけでは不十分だ。企業が利益をあげ、新規採用を増やせるような経済成長の環境をどう整えるかという政策が重要になる。
 日本経済を中長期の成長軌道に乗せるには、掛け声や一時的な財政支出による下支えだけでは難しい。民間主導の持続成長を進めるには、産業構造の転換を促す農業や医療分野の規制改革、経済活性化に視点を置いた税制改革などの政策を打ち出す必要がある。
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